朝晴れエッセー

わが家に泊まる・4月13日

わが故郷は日本一人口の少ない県で、進学や就職による県外流出に歯止めがかからない。かくいう僕も高校卒業後に都会に憧れて家を出た。生家のある商店街はシャッター通りになっている。

時代の流れには抗(あらが)えず、明治創業の長野紙店も廃業することになった。一応売りに出したものの、売れるとは思っていなかった。が、1年半後に仲介業者から連絡があった。

「買いたいという人がいます。フランスの方です」。帰省して、そのフランス人と会った。16年前、23歳でエンジニアとして来日した彼はこの街の海と山に魅了され、永住を決意したそうだ。そして今、僕の家をゲストハウスにしたいという。

「私はこの街を深く愛しています。商店街の開発に参加できることをとても嬉しく思います」

思わず目頭が熱くなった。この街に生まれ育った僕がこの街を捨て、外国人である彼がこの街を愛してくれている。彼の故郷のノルマンディーの海も同じようにきっと青く澄んでいるのだろう。

それからきっかり1年後に、ゲストハウスがオープンしたので特集をしたいと地元のテレビ局から電話があった。

番組では彼がほとんど1人でリフォームし、天井を外したら明治時代の立派な梁(はり)が見つかり感激したという。それをそのままインテリアとして使っていた。幼い頃、われわれ兄弟3人が過ごしていた部屋だ。

「ご先祖様、いい人が買ってくれましたよ」。コロナが収束したら家族でわが家に泊まりに行こう。

長野美樹 60 大阪市西区