ザ・インタビュー

初恋のドキドキは国境を超えて 東村アキコさん「私のことを憶えていますか」

【ザ・インタビュー】初恋のドキドキは国境を超えて 東村アキコさん「私のことを憶えていますか」
【ザ・インタビュー】初恋のドキドキは国境を超えて 東村アキコさん「私のことを憶えていますか」
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 恋愛漫画とギャグ漫画の名手である著者が「ここぞというときに描くぞ」と決めていた作品だという。日韓両国で同時連載中の本作のテーマは「初恋」。社会人として普段澄ました顔をしている大人も、その多くが一皮むけば、子供の頃の甘酸っぱい思い出を胸の奥に秘めているだろう。

 「5年ほど前からずっと描きたいと思ってました。初恋のドキドキや甘酸っぱさは世界共通で、男女も国境も関係ない。多くの人にとって、初恋の思い出がその後の恋愛など人生に影響を与えていると感じます」

 主人公は芸能ライターの30歳女性、遥(はるか)。書類用のクリップで髪をとめ、徹夜でゴシップ記事を書く忙しい日々を送る。そんな遥は、なぜか人気俳優のSORAから目を離せなくなってしまう。小学6年の時、初恋の相手だった3歳年下の男の子「こうちゃん」によく似ているからだ。<私のことを憶(おぼ)えていますか?>。遥は、20年近く止まっていた時間が動き出すのを感じる。

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 着想のきっかけは自身の初恋にあった。ある時、K-POP好きの同好の士から「いつも同じタイプの子が好きですね」と言われ、「確かに似てるな」と不思議に思った。

 「息子の洗濯物を畳んでいるとき、走馬灯のように突然、自分の初恋のことを思い出したんです。あの(系統の)顔の子が近所にいたな、って」

 自身も小学6年のころ、3歳年下の男の子が好きだったという。だが、当時の小学生にとって、3歳の違いは大きい。もしバレたら、男子にからかわれる-。東村さんはそのことをひた隠しにし、いつしか忘れてしまったという。

 「大人になれば3歳違いなんて気にする人はいない。もしあの頃好きと言えていたら。その後も連絡を取っていたら…。私の人生、変わっていたと思います」

 甘い記憶とほろ苦い思い出。今も折に触れ胸をしめつける後悔…。本作の描写が読者の心に迫るのは、自身の経験や感情が作品に説得力を与えているからだろう。

 「漫画は自分のことを描くのが一番面白い。私は自分自身のネタや経験則で描くのが8割。50歳を過ぎたらエッセーを描こうと思ってます」

 遥の幼なじみの猫作(ねこさく)が恋愛模様に参戦し、物語は三角関係に。ただし、ギャグのキレにも定評のある著者。ストーリーは決して重苦しくなく、コミカルな会話劇に笑ってしまう。代表作『海月(くらげ)姫』に登場する個性的な女子集団「尼~ず」を彷彿(ほうふつ)させるキャラクターも登場する。

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 デビュー後、育児経験を描いた『ママはテンパリスト』でブレーク。『東京タラレバ娘』など数々の人気作を手掛けた。漫画家になるまでを描いた自伝的作品『かくかくしかじか』をはじめ、「将来の自分はどうなっているのか」という誰もが抱える不安を描く作品も、多くのファンを魅了している。

 速筆の漫画家としても知られる。家事をこなすため、仕事机に座る時間は1日7~8時間。このインタビューの前にも、洗濯機を2度回してきたという。

 「家事は大変ですが、仕事は全くしんどくない。むしろ、『もう終わっちゃうんだ』と思うくらい。アシスタントのみんなとワイワイ楽しく漫画を描いています。文化祭をずっとやっている感じですね」

 今後の目標は、世界の人々に日本の漫画をもっと読んでもらうこと。スマートフォンの読者を想定した「縦スクロール」のコマ割りや全編フルカラーなど、国際市場を強く意識する。

 「韓国のドラマが昨年世界中を席巻しましたが、日本の漫画も本当に面白いし、もっといろいろな国に翻訳されて、たくさんの人たちに読んでほしい。その先駆けになりたいです」

 まだ漫画の魅力を知らない世界の人々にも向け、今日も物語を描き続ける。

3つのQ

Q日韓両国で同時連載する中、表現などの難しさは?

日本のテレビ番組ネタなどを封印しないといけないこと。ただ挑戦というか、逆にやる気が出ます

Q現在抱える締め切りの数は?

月3~4本。多いときは月7本くらいですが、もう慣れました。優秀なスタッフに感謝です

Q別作品でおなじみの「ごっちゃん」(息子)の近況は?

この春から高校1年生。すくすくと元気に育っています

(文化部 本間英士)

 ひがしむら・あきこ  昭和50年、宮崎県生まれ。平成11年に漫画家デビューし、育児経験を描いた『ママはテンパリスト』でブレーク。代表作に『ひまわりっ ~健一レジェンド~』『海月姫』『雪花の虎』など。27年、『かくかくしかじか』でマンガ大賞。令和元年、『東京タラレバ娘』で米アイズナー賞(最優秀アジア作品賞)。昨年から漫画配信サービス「ピッコマ」で『私のことを憶えていますか』を連載中。既刊3巻。