東京五輪の聖火リレーは13、14日、大阪府で行われる。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて公道でのリレーは中止となり、代替措置として両日ともに万博記念公園(同府吹田市)で聖火がつながれる。難病を乗り越えて走者を務める女性は、闘病を支えてくれた周囲への感謝を込めて大役を担う。(鈴木俊輔)
「一生に一度の機会。楽しんで走りたい」
13日に聖火ランナーを務める辻彩香さん(28)は笑顔を見せた。晴れの舞台は地元の同府枚方市から吹田市に変わったが、特別な思いを胸に秘め、そのときを待っている。
生まれつき胆管が詰まった「先天性胆道閉鎖症」を患い、生後間もなく手術を受けた。かつては1万人に1人程度とされてきた難病で、症状が進行すると肝移植が必要となる。
中学校では陸上部に所属し、生徒会活動にも参加するなど活発に育ったが、少しずつ症状が進行。発熱や嘔吐(おうと)の症状にたびたび襲われ、入退院を繰り返すようになった。
治療を重ねることで抗生物質が効かなくなり、生体肝移植に望みを託した。高校3年の夏、母をドナーに移植を受け、長期の入院生活を送った。
術後、移植した臓器を定着させるために使用する免疫抑制剤の影響で感染症に罹患(りかん)。腹水がたまり、呼吸や身動きが思うようにできなくなった。全身に管がつながれ、視界がはっきりとしない日もあった。
「この先どうなるんだろう」「なんで自分が」。感染症対策で、見舞客との面会もほとんどできない。ときに悲嘆に暮れる中、高校の同級生らが送ってくれた千羽鶴や手紙が心の支えとなった。
約5カ月後に退院。しかし、入院生活が長期化した影響で、同級生と一緒に卒業することはできなかった。1年遅れて卒業後、闘病の経験を生かそうと医療の道へ。専門学校に進み、現在は大阪市内の病院で事務として働く。
心残りだったのは、「お別れも言えないまま疎遠になってしまった」という同級生らに感謝を伝えられなかったこと。病気を乗り越え、元気になったと伝えたい-。その手段として思い立ったのが、聖火ランナーだった。
闘病を支えてくれた周囲への感謝、そして同じように病気に苦しむ人たちへのエール。トーチに込める思いは、地元でのリレーがかなわなくなっても変わらない。
「延期が決まってから1年間、待ち遠しかった。元気に走る姿を通じて、病気に苦しむ人を勇気づけたい」