DX成功のカギはトップの覚悟と現場のマインド 元佐賀県CIO・森本登志男 (1/2ページ) - 産経ニュース

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DX成功のカギはトップの覚悟と現場のマインド 元佐賀県CIO・森本登志男 

全国の自治体に先駆けて、佐賀県はコロナ禍でテレワークが世に広まるより6年も早く県庁全職員を対象にテレワークを開始しており、2011年には県内すべての救急車にiPadを配備して救急搬送にかかる時間を短縮するなど、10年以上も前からデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組んできた。その変革を推進してきたデジタルトランスフォーマーが、2011年から佐賀県の最高情報統括監(CIO)に就任していた森本登志男だ。なぜ、佐賀県は10年前からDXに成功していたのか。その秘訣と経緯を森本氏に聞いた。(ITジャーナリスト 田中亘)

--自治体がDXを成功させるためには何が重要でしょうか

DXのためのテクノロジーは、お金さえ出せばどこの自治体でも導入できます。DXに関連する製品や技術だけではなく、指導してくれる人も対価を払えば調達できます。しかし、それだけでは成功しません。テクノロジーの導入よりも重要な成功のカギは、将来への見識を備えたトップの覚悟と現場のマインドがDXに向かうことです。テクノロジーで『何を解決したいのか』という課題を、トップが明確に示し、導入する現場がそれを共有し、一体となって推進することです。これまで関わってきた多くの自治体で、解決すべき課題を明確な形として共有できず、本来のゴールとなる大きなビジョンやコンセプトを持たないまま事業を進めている状況を見てきました。その結果、予算を確保して委託業者が決まっても、現場が変化を嫌うために本来のゴールを見失い細かな仕様ばかりにとらわれ、なかなか課題解決につながる良い成果がでない事業が多いのです。

--現場が変化を嫌うというDX失敗の傾向を覆す手立てや、成功事例はありますか

私が佐賀県のCIOを勤めていた2013年に、YouTubeの再生回数が237万を超える『恋するフォーチュンクッキー 佐賀県庁 Ver. / AKB48[公式] 』を企画し、佐賀県の好感度を向上させた成功事例があります。

この動画を制作するきっかけが、「業務のバリエーションの広い県庁職員が、それぞれの職場で曲に合わせて踊るような動画を作れないか」との当時の佐賀県知事からの相談でした。前職のマイクロソフトでマーケティングを担当していた経験と、アイドルに詳しいことから、白羽の矢が当たったのだと思います。私自身も、最初に『恋するフォーチュンクッキー 』のミュージックビデオを観たときに、この曲に合わせて踊る自主制作の動画が数多く投稿されることを運営サイドは計算していると感じました。そこで、知事にはそうした分析を示し、県庁の職員に協力してもらい、佐賀県庁のPRになる動画を制作しました。撮りたい映像イメージを絵コンテにして渡した部門もごく少数ありましたが、それぞれの部門が創意工夫して楽しい動画が出来上がりました。外向けには、AKB48[公式]の認定を最初に取得したことと、お堅いイメージの地方自治体の動画という話題性もあって、再生回数が激増しました。結果的に、240万再生を記録し、東京エリアでのメディア露出による広告換算額は、推計で約1.5億円を超えました。この佐賀県での成功を見て、そのあとに他の自治体や会社・団体も自分たちで動画を撮って投稿するというムーブメントが起こりました。

佐賀県は地味なイメージを持たれ、他県からの認知度も低い状態でした。この動画には、佐賀県に対するとても好意的なコメントが並び、自分たちが出演し作成した動画の配信が瞬く間に広がっていく現象を多くの職員が体験しました。この頃、佐賀県庁では、Facebookのページを持つ部署が50を超えているなど、SNSでの情報発信が活発に行われていました。SNSなどネットを使ったデジタルによる情報の拡散の力を現場が理解したのです。トップである県知事が覚悟を決めて率先し、県庁の職員たちが新しいことへの変化をいとわず実践するマインドが、その後も佐賀県庁のDXを推進する力になったと思います。