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ウイグル弾圧 「五輪と政治は別」なのか 野口健

新疆ウイグル自治区で行われた、公開の場で逮捕し判決を言い渡す「公捕大会」の様子。この後に「再教育施設」に収容されたとみられる(日本ウイグル協会提供)
新疆ウイグル自治区で行われた、公開の場で逮捕し判決を言い渡す「公捕大会」の様子。この後に「再教育施設」に収容されたとみられる(日本ウイグル協会提供)

聖火リレーがスタートしてもなお、東京五輪を不安視する声は大きいが、僕にとっては、来年2月に行われる北京冬季五輪への懸念の方がはるかに強い。中国で2度目の五輪が開催されると決定したとき、2008年の北京五輪のときの苦い思いがよみがえった。

開催数カ月前、チベットで動乱が起きた。それまで、中国から激しく迫害され、苦しみ続けたチベット人たちが抗議デモを行った結果、中国政府により、5000人以上が拘束され、200人以上が虐殺された(チベット亡命政府)のだ。ヒマラヤ登山で知り合ったチベット人たちは、みんな温厚だった。シャイで控えめな彼らが、死をも覚悟して動乱を起こしたのだ。まさに特攻隊員のような心境だったろう。

僕は、北京五輪がチベット問題を解決する唯一のチャンスと思い、開会式のボイコットを訴えた。世界中で、北京五輪の開催の是非(ぜひ)、ボイコットなどを訴える人たちは大勢いたが、結局、開会式をボイコットする国はなく、五輪は開催されたのだ。世界中からたたかれても五輪が無事に終わったことで、その後の中国が強気になっていったのは言うまでもない。

今、新疆ウイグル自治区では強制収容所が設置され、拷問や不妊手術の強要など、中国政府による凄惨(せいさん)な迫害が横行しているのだ。米政権は、これらの弾圧に関して国家による「ジェノサイド」と認定、英国、カナダ、欧州連合(EU)なども歩調を合わせて制裁を科し、五輪不参加などを議論する国も出てきた。しかし、日本政府は人権問題を理由に制裁を科すための根拠となる法律が存在しない、などといい、ふがいないばかりだ。

「五輪と政治は別」という言葉をよく耳にするが、ならば、五輪憲章などは形骸化するのではないか。もし、この人権問題も解決されず、五輪が開催してしまえば、ますます、中国は威勢を増し、台湾統一という野望に向かっていくだろう。台湾だけではない。今後、尖閣諸島、南シナ海への侵攻を目指すであろうことは想像に難くない。日本にとっては決して、対岸の火事ではないのだ。

【プロフィル】野口健

のぐち・けん アルピニスト。1973年、米ボストン生まれ。亜細亜大卒。25歳で7大陸最高峰最年少登頂の世界記録を達成(当時)。エベレスト・富士山の清掃登山、地球温暖化問題、戦没者遺骨収集など、幅広いジャンルで活躍。著書に『震災が起きた後で死なないために』(PHP新書)。