日本の名詩の英訳を試みた米国人の著作に、「ぼくもいくさに征くのだけれど」という題名の短い詩が収録されていた。出会ったのは大学生の頃だ。詩の作者である竹内浩三の名を、そのとき初めて知った。
その詩には出征が決まった21歳の詩人が、諦念とともに生への強い執着を逆接の言葉で表現しており、ひどく驚いた。書かれたのは昭和17年の戦時中。言論や思想が統制されていた時代に竹内は「ぼくがいくさに征ったなら/一体ぼくはなにするだろう…」と歌ったのだ。
この全集では「反戦詩人」と評された竹内の甘酸っぱい青春の日々も垣間見ることができる。三重県の旧制中学から日大芸術学部時代、映画を好み、同人誌を作り、詩や小説、漫画を寄稿していた。思いを寄せていた女性にふられた顛末を描く「ふられ譚」という短い小説には「オレのようなやつを好かない女は、よっぽどアホである」と強がる一面も見せている。
穏やかな学生時代も長くは続かない。戦況は悪化し、出征が決まる。その詩も「兵営の桜」「演習」「行軍」など戦争を忌避する思いを表現したものへと変化していった。竹内の作品は検閲の眼を逃れるため教科書や本、自身の日記の余白に書かれ、戦後に家族や友人によって発表されたものだ。激動の時代に「日本よ/オレの国よ/オレにはお前が見えない」と歌い、決して「詩をやめはしない」と書いた。
戦争を知らない私たちの世代も、戦時下に自身の生きた証を残そうとした人々の作品を後世につないでいくことはできる。それが歴史から目を背けない生き方だと信じている。
23歳で世を去った詩人。私は先日、24歳になった。竹内が過ごせなかった時間をどのように生きることができるだろうか。
滋賀県栗東市 M・U 24
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