クラスター発生も転院先なく…精神科病院が孤立

クラスター発生も転院先なく…精神科病院が孤立
クラスター発生も転院先なく…精神科病院が孤立
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 新型コロナウイルスの感染拡大は、精神疾患や認知症など、感染対策に困難さを伴う患者に対する医療提供にも課題を突き付けた。精神科病院ではクラスター(感染者集団)が起きても患者の転院先が見つからず、孤立を余儀なくされた。「支援態勢が構築されなければ、何もできずに患者を看取る状況が生まれかねない」。リバウンド(感染再拡大)の脅威が漂う中、関係者には危機感がにじむ。(三宅陽子)

対策に限界

 「ウイルスが一度持ち込まれれば、一気に広がってしまう環境にあった」

 精神科病院「東加古川病院」(兵庫県加古川市)で副院長補佐を務める黒田優(まさる)医師(41)は、クラスターの恐ろしさをそう振り返る。昨年12月中旬に職員の感染が確認され、その後、入院患者約170人、職員ら約30人の計約200人の陽性が判明した。

 同病院には当時、慢性の統合失調症や認知症、知的障害の患者ら約400人が入院していた。職員らはマスク着用や手指消毒など基本的な感染対策のほか、発熱症状がみられれば抗原検査を実施するなど院内感染防止の取り組みを続けてきたが、対策には「限界」もあった。

 患者の大半はマスク着用を嫌がり、正しい付け方ができない。安全確保のため、各部屋の窓は人が通れないほどしか開けられず、換気に不安もあった。そんな中、患者の精神状態を安定させるため、発熱がないなどの条件付きで家族との面会を認めた翌週に、最初の感染者が出てしまった。

 長期入院が多い患者にとり、同病院が「生活の場」であることも、感染対策を難しくさせた。数十人規模が過ごせる大部屋が点在し、食事や患者同士の交流も行われる。共用風呂に大勢で入浴し、介助が必要な患者も多い。患者とスタッフ、患者と患者の距離は近くなりがちで、「感染は瞬く間に広がった」(黒田氏)。

 感染が起きた場所とそれ以外を分けるゾーニングを徹底しても、防護服の着用が必要なエリアに、感染していない入院患者が入り込んでしまうなど、対策には困難さがつきまとった。

人材不足に苦悩

 重症化リスクのある高齢の感染患者が多かったが、同病院に内科の常勤医は2人しかおらず、人工呼吸器など容体急変に対応できる設備もない。治療設備の整う病院に転院させようにも受け入れ先が見つからず、死亡する患者も出た。第3波で県内の医療機関も逼迫(ひっぱく)したことに加え、精神科の患者は「手がかかる」と先入観を抱かれがちなこともネックとなった。

 感染拡大に伴う人材不足にも苦しめられた。感染判明や濃厚接触の疑いで、50人近い医療スタッフが一時現場を離脱。入院患者約400人を医師6~7人で診る状況に陥り、看護師も長時間残業や連続夜勤をこなしながら、日々をつないでいった。最終的に、地域の精神科病院や民間団体を介した看護師らの応援派遣が大きな助けとなったという。

 クラスターの収束宣言は3月1日。最初の感染者判明から約2カ月半後のことだった。「精神科病院や老人施設で感染者が出れば、クラスター化しやすい。100人規模で感染者が出た場合、全ての患者の転院は可能なのか。その場に留まらなければいけないなら、必要に応じて専門人材の派遣を受けられるといった支援態勢がなければ、現場は闘えない」。黒田氏はこう訴える。

患者6割が転院できず

 日本精神科病院協会(日精協)の調査では、精神科病院に入院中に感染が確認された約1000人のうち約6割がコロナ治療のための転院ができなかったことが判明。精神疾患が理由との回答が複数あり、死亡事例も報告された。日精協の会員病院30以上でクラスターが発生、受け入れ先の病院も対応に苦慮したという。

 日精協は1月に会員1192病院にアンケートを実施し、524病院が回答。114病院で1012人のコロナ患者が出たが、631人が転院できなかった。内訳は軽症499人、中等症92人、重症1人。無症状も39人いた。「(転院できず)3人が亡くなった」などの報告も寄せられた。

 東京都の精神科身体合併症医療の拠点「都立松沢病院」(世田谷区)は昨年4月、結核病棟の転用で当初18床のコロナ専用病棟を開設。その後、民間精神科病院、高齢者施設などで相次いだクラスターに対応するため、同6月には24床に拡大してニーズに応えた。

 コロナから回復後もリハビリが必要で通常より入院が長引く患者もいたが、民間医療機関の協力も受けて乗り切った。さらなる患者増に備え、45床まで増やすシミュレーションも行うが、斎藤正彦院長は「そうした事態になれば、救急を含む一般精神医療の遂行に支障が出かねない」と話す。

 神奈川県立精神医療センター(横浜市)は、県の「精神科コロナ重点医療機関」に指定され、コロナ病床6床を確保。昨年末にクラスターが起きた別の精神科病院の患者の転院先となり、一時満床になった。「次のクラスターが発生していたら、身動きがとれなくなっていたかもしれない」と田口寿子所長は振り返る。

 コロナ患者の転院先は、内科医や精神科医がそろった総合病院が理想だが、地域での役割分担は進まず、田口氏は「精神科の患者の間口を広げてもらうため、平時から連携体制を築いておく必要がある」と強調する。

 精神科の医療体制が脆弱(ぜいじゃく)な地方はより深刻で、東北地方の精神科医は「公立病院の受け入れ強化を求めてきたが、思うようにいかない」と打ち明けた。

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