4月から中学校で使われる一部の教科書で、戦後の造語で、「強制連行説」と結び付けて使われることが多かった「従軍慰安婦」の記述が復活する。慰安婦募集の強制性を認めた平成5年の河野洋平官房長官談話が根拠だ。談話は海外の慰安婦像設置の正当化にも利用されており、今も日本の名誉を傷付けている。
「従軍慰安婦」と記載したのは山川出版社の中学校歴史教科書で、昨年3月に令和元年度検定で合格した。文部科学省が今年3月30日に公表した4年度以降の高校教科書の検定結果によると、清水書院と実教出版の「歴史総合」でも「いわゆる『従軍慰安婦』」と記載されている。
「従軍慰安婦」の記述が教科書検定を通過したのは河野談話があるためだ。教科書検定は「閣議決定その他の方法により示された政府の統一的な見解又は最高裁判所の判例」を記述の根拠とすると定めており、河野談話も政府の統一見解に含まれると解釈されている。談話を根拠に教科書の記述がなされた場合、「反論のしようがない」(文科省関係者)のが現状だ。
だが、政府は談話を堅持する方針だ。加藤勝信官房長官は31日の記者会見で談話を見直すかについて「官房長官談話そのものを継承するというのが政府の立場だ。現時点でも変わるものではない」と述べた。
これまで河野談話を見直す動きはあった。第1次安倍晋三政権が平成19年に「強制連行説」を否定する答弁書を閣議決定。26年には第2次安倍政権下の有識者検討チーム報告書が、談話に強制性の裏付けはなく、韓国の修正要求を入れた日韓合作だったと明らかにしたが、談話自体は破棄されていない。政府関係者は「強制連行説は否定しつつも談話は継承した。見直せば韓国や米国から突っ込まれる恐れがあった」と解説する。
加藤氏は「政府では近年、『慰安婦』という用語を通常用いることとしている」とも述べた。だが、文科省教科書課は「『従軍慰安婦』との言葉が河野談話に残っており、政府が談話を継承するとの立場である以上、教科書で使ってはいけないとするのは難しい」と話す。
韓国などによる河野談話を根拠にした国際世論への工作は今も続いており、これを防ぐには、閣議決定などで「従軍慰安婦」という戦後の造語を明確に否定するといった対応が政府には求められている。(千田恒弥)