美村里江のミゴコロ

春の山菜とクマ

「山菜採りに行き、クマの被害に…」。春になると増えてくる胸の痛いニュースだ。「なぜそこまで山菜を」と不思議に思っていたのだが、実際の山を経験すると、いろいろ分かってくる。

渓流釣り師にとってもクマ情報は重要で、最近は本当に「こんな所にも?」という人里にクマが出没するケースがあふれている。産直野菜を売っている道の駅など、人の多い場所でも出ているのだ。

マスタードの入った「クマ撃退スプレー」は必ず携帯しているが、実際に木の皮を剥いだ新しい爪痕を見たときにはゾッとした。当然その場で釣りは中止、即座に車に戻って移動した。

安全で平和な川に見えても、退路の確認などは必ずしておく。しかしクッション性の高い掌(てのひら)で音もなく、時速50キロで走り寄るクマに本気を出されたら、即終わりだ。いくら山に十分慣れたお年寄りでも、気づいたときには遅いのだろう。

また、あるグルメ漫画の「根まがり竹」の回にあった、こんな説明にも納得。「背丈ほどの密集した笹やぶをガサガサと中腰でかき分けながらタケノコを探すので、気づいたらもう熊が目の前」。もちろん、それでも行ってしまうのは大変おいしいからだ。

岐阜の山で、食事のおいしさで有名な宿に泊まったとき、これを痛感した。陶板で焼いた飛騨牛や、川魚料理も堪能したが、何よりおいしかったのは山菜のスープだ。具なしの牛テールスープを火にかけ、これに採れたての山菜を何種類かサッと入れ、すぐに火を止める。乳白色に早緑(さみどり)が映え目にも美しかったが、歯応えと少しの苦味、牛の濃厚なうまみを軽やかに超える多様な香りに、口も胃袋も歓喜した逸品だった。

本気の山菜を現地で食べると、「生える場所を知っていたら採りに行きたくなる」と分かる。私も普段は人気店の行列など縁がないが、数年前、寒風吹きつける年末の行列に2時間半、並んだことがある。翌日帰省するマネジャーに、どうしてもお土産として持たせたい、とてもおいしいクッキーがあったのだ。あのときの自分の熱意を思い返すと、理解ができる。

さらに山菜はお小遣い稼ぎにもなると聞く。山菜を食べさせてあげたい人や、お小遣いをあげたい孫がいたのではないだろうか。そうして考えるとなお悲しく、今年のクマ被害が減ることを心から願っている。