朝晴れエッセー

椿・3月23日

今年も椿の季節がやってきた。

30数年前、まだ52歳だった母は末期のガンを宣告され入院していた。そのころは告知などせず、本人には別の病名を告げ、ガンであることは伏せることが多かった。

だから当初母も退院できると信じて「神様がくれた休日」などと言って現状を受け入れていたのだ。

農家はそろそろ忙しくなる春先、父は車で1時間余りの母の病院へ通っていた。自分の身の回りのことは母に任せきりだった父が、苦労しながら毎回、母のリクエストの荷物などを持参しながら通っていた。

私も嫁ぎ先から通い、病院で昔話などして親子の会話を楽しんでいるよう振る舞った。

ある日、タオルなど荷物の入った段ボールの一番上に新聞紙で包まれた椿の花が…。庭の椿がきれいだったから持ってきたという父。

それを見た母が「椿は首が落ちるように散るから縁起が悪いんだよ」と笑いながら言うと、父はそうか…苦笑しながら気まずそうにしまい込んだ。花瓶にでも飾って、庭の椿を見せたいと思う父の気持ちが切なかった。

椿も終わる4月初め頃に母は逝った。白髪もまだ目立たない年だったのに。それから、30年も後に逝った父はすっかりおじいさんで、迎えた母にびっくりされていただろうか。

母より10歳以上も長生きしている私、椿の季節、この光景が思い出される。

板橋栄子 63 仙台市太白区