無感情の「本読み」が生み出す異空間 ベルリン銀熊賞の濱口竜介監督

無感情の「本読み」が生み出す異空間 ベルリン銀熊賞の濱口竜介監督
無感情の「本読み」が生み出す異空間 ベルリン銀熊賞の濱口竜介監督
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 世界三大映画祭の一つ「ベルリン国際映画祭」で新作映画「偶然と想像」が銀熊賞(審査員グランプリ賞)を受賞した濱口竜介監督(42)は、この受賞作でも独特のリハーサル方法をとっていた。役者が無感情の「本読み」を繰り返してせりふを自分のものとし、本番で初めて「演技」をする。そんな手法や、小規模なチームが短編を製作する喜びについて、濱口監督に聞いた。(水沼啓子)

“貧しい画面”言葉で変化

 短編3話からなる「偶然と想像」は会話劇が中心の作品だ。ベルリン国際映画祭の審査員からは「言葉によって新たな次元が開かれていくようだ」と、作中の会話によってもたらされる映画全体の表現力が高く評価された。

 「偶然と想像」の画面は、ハリウッド映画のように潤沢な美術や照明は使われていないため、貧しい画面(濱口監督)だ。濱口監督はベルリンの審査員たちの評価を「(例えば)白い壁に2人が立っていて、そこはある意味、貧しい空間。でも役者が言葉を発していくとその空間が何か変わっていくような、作品がそういうものを持っている」と解釈している。

 3話とも1週間~10日と、長い時間をかけてリハーサルを実施。リハでは、出演者が無感情でひたすら台本を読む「本読み」という作業を繰り返し、本番で初めて役者がせりふを自由に、感情を込めてしゃべるという手法を取った。

 「(撮影現場で役者同士が)感情が入った声を初めて聞くことになる。そのときに何か驚きがあるのではないか。それを期待している」と話す。紋切り型の演技は徹底的に排除した。

 「偶然と想像」に出演した女優の玄理(ひょんり)さん(34)は、濱口監督のリハを通して「何の感情も入れない棒読みでせりふを覚えて、現場で相手の芝居を受けて(自分も)芝居をする。それが正しく、そうあるべきだと気づかされた」という。

 この方法は、4人のアマチュア女性が演じた「ハッピーアワー」や東出昌大(ひがしで・まさひろ)さんらプロの俳優が出演した「寝ても覚めても」でも実践された。「顔も心理的状態などが現れやすいが、顔よりも声のほうが伝える情報量が多い」というのが、濱口監督の見解だ。

 この感情を入れない独特の「本読み」は、フランスの映画監督、ジャン・ルノワール氏の演技指導に関するドキュメンタリー映画を見て取り入れたという。映画の演出が分からず悩んでいたが、このドキュメンタリー映画を見て「導かれる感じだった」と振り返る。

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