安全保障上、重要な土地の買収を制限するための土地利用規制法案をめぐる与党内調整は、政府・自民党が公明党に譲歩する形で決着する見通しになった。焦点だった取引当事者への事前届け出の対象範囲は「経済的社会的観点から留意すべき事項を含む」との一文を追加。これによって規制対象から市街地を除外できる余地が残り、実効性が損なわれる可能性もある。
法案では、土地の取引当事者に氏名や利用目的などの事前届け出義務を課す「特別注視区域」を設定。対象として「司令部機能を持つ自衛隊の駐屯地・基地」「領海などの基準となる『低潮線』を持つ国境離島」を示し、後に策定する基本方針で大枠を示すことにしていた。
ただ、公明のベテラン議員らから「経済活動に影響する過度な私権制限にならないか」との懸念が示され、調整は難航。一時は事前届け出の削除が俎上(そじょう)に上がり、政府が目指した3月上旬の閣議決定が遅れた。公明側の調整役だった遠山清彦元幹事長代理が、緊急事態宣言下での会合問題で2月1日に議員辞職したことも影響した。
自民は同様の議員立法をこの約7年で3度断念した。近隣国の経済活動への配慮や私権制限への懸念から与党内に根強い反対があったからだ。そのため今回は規制行為を土地の「所有」ではなく「利用」とし、対象から森林や農地は除外。さらに施設周辺のおおむね1キロに限り、届け出対象も面積200平方メートル以上に絞るなど、慎重論に配慮を重ねてきた。
さらに与党協議の結果、事前届け出の対象から市街地を除外できる余地が生まれた。政府高官は「法案ができるだけでも一歩前進だ」と話すが、満身創痍(そうい)の法案にこれ以上妥協の余地はなさそうだ。(市岡豊大)