小中学校での内容から学び直せる高校として大阪府教育庁が指定する「エンパワメントスクール」が、統廃合の危機に直面している。8校中3校で志願者数の低迷が続き、来年度に再編の検討対象になる見込みだ。授業料の無償化によって、同じような特色を持つ私立高に生徒が流れているともみられるが、府教育庁は「学習につまずく生徒のため、公教育としての受け皿はなくせない」として、志願者を増やす方策を模索している。(藤井沙織)
生徒の9割「入ってよかった」
「試験がんばりや」「帽子は脱ぎなさい」。2月下旬、府立西成高校(大阪市西成区)で山田勝治校長が休み時間に廊下を歩く1年生に声をかけた。生徒の様子を見て回るのは朝の日課。授業が始まると、学年末試験に向けて教科書を開いて黙々と復習する生徒の姿も見られた。山田校長は「入学したときと比べ、生徒たちの授業や教員に対する姿勢は本当に変わった」と話す。
エンパワメントとは、生徒の「力を引き出す」という意味だ。平成27年度に西成、長吉、箕面東高校の3校から始まり、30年度までに計8校が指定された。1学級の人数は一般の高校より5人少ない35人。国語・数学・英語の授業は習熟度別で、1年生は集中力が途切れないよう1コマ30分で行う。割合や関数など、共通の教材で小学3年~中学3年までの内容を学び直して基礎学力の定着を図るほか、資格取得に向けた授業など各校で特徴的なカリキュラムを組む。
「入学するのは、授業が分かる、問題が解けてうれしいという経験を積み重ねられなかった子供たち」と山田校長。まずは学習のハードルを下げ、できたことを評価することから始める。今年度のアンケートでは、生徒の9割超が「西成高校に入ってよかった」と回答した。
定員割れ3年で再編対象
だが在校生の評価の高さに反し、入学志願者は減るばかりだ。27年の入試(1次募集)では1・59倍あった平均倍率は年々下がり、今回は0・92倍でついに1未満に。志願者数が定員を上回ったのは1校のみで、岬高校は4年連続、西成高校と箕面東高校は3年連続の定員割れだった。2次募集は22日正午に出願が締め切られ、3年連続で2次募集も含めた入学志願者が定員を下回るなどした場合は府の条例で再編の対象となる。他の5校も低迷が続けば検討の俎上(そじょう)にあがることになる。