農業の『未来創世記』:気候変動アクティビストのための、遺伝子とオーガニック再考

それに、CRISPRのような精度の高いゲノム編集技術も登場している。干ばつや気温上昇への耐性だけでなく、収穫量を増やすことで結果的に農業における温室効果ガスの排出量を減らしたり、温暖化によって生じる新たな病害虫にも対処できる作物を開発したりすることが可能になった。

 テラノヴァ農場に設置されているソーラーパネル。10エーカー(40%2C468m2)の土地で太陽光発電を導入している。

クローン種子の実現に向けて

大学のキャンパスの少し先で、ラウル・アダムチャクに会った。彼は1996年からカリフォルニア大学デイビス校の付属農園の管理をしており、いまは学部生たちと有機農業に取り組んでいる。有機農業の本質について、アダムチャクは次のように説明する。「人体だけでなく、環境にも害のある化学肥料を使わないこと。そして堆肥で土壌に栄養を与えること。それから、土壌侵食の防止や地力向上のために、主作物の休閑期にクローバーなどの被覆作物で地表を覆うなど、創造的な輪作を実現することです」

有機農業の実践者と遺伝学の研究者は、思想的に異なる世界に住んでいることが多く、信頼関係も薄い。ただ、アダムチャクは遺伝子組み換え作物をオーガニック食品から除外すべきではないと主張する。彼が柔軟な思考を抱くようになったのは、ロナルドと多くの時間を過ごしてきたからだろうか。ふたりは結婚しており、『有機農業と遺伝子組換え食品 明日の食卓』〈丸善出版〉という共著を出版している。アダムチャクは、有機農業と遺伝子組み換え作物という組み合わせは「特に低所得国の小規模農家で力を発揮します」と話す。

トウモロコシのような主要作物で窒素の利用効率を高め、害虫や暑さへの抵抗性をもたせることができれば、農家は化学肥料や殺虫剤を購入する必要がなくなり、温暖化が進行しても栽培を続けられるのだ。

もちろん、遺伝子操作が唯一の解決策ではない。世界には、太陽光発電を活用した灌漑や改良が重ねられたローテクによって、より迅速に恩恵を受けている地域もあるのだ。それに、遺伝子組み換え作物はほぼすべてが交配種(ハイブリッド)であるため、種子を毎年購入しなければならないという問題もある。

交配種とは、異なる品種を掛け合わせたものを指す。1代目(F1)は親より丈夫で収穫量も増えるという性質をもつ。だが、2代目(F2)は祖父母の品種の劣性形質を発現するものもあるため、どう育つか予測がつかない。

科学者たちはこの問題に取り組んでいる。そしてカリフォルニア大学の植物遺伝学者イムティアズ・カンデイは、F1の形質をすべてのF2に伝える方法を発見したのだ。たったひとつの遺伝子をいじるだけでF1は自らのクローンをつくるようになり、F2でも干ばつ耐性から害虫抵抗性まですべての形質を維持できる。まだ技術は開発段階にあるが、理論的にはあらゆる植物に応用が可能で、農家はF1から採った種で翌年も同じ作物を栽培できるようになるのだ。カンデイは、遺伝子操作によるクローン種子を10年以内に実現させようとしている。

 カリフォルニア大学デイビス校の温室で苗をチェックするラウル・アダムチャク。パメラ・ロナルドとアダムチャク夫婦は、遺伝子工学と有機農産物は必ずしも対立するものではないと考えている。

最も重要なのは炭素隔離

農業は気候変動に対応するために、どう変わることができるだろう。化学肥料や農薬、遺伝子組み換え種子といったインプットではなく、アウトプットに着目したらどうなるか。それはつまり、古い枠組みを取り払い、温室効果ガスの排出量および水や土地の使用量、環境汚染、農業従事者や消費者の健康と安全といった農業の「結果」に目を向けることでもある。