農業の『未来創世記』:気候変動アクティビストのための、遺伝子とオーガニック再考

自然に介入してきた事実

人類の半分以上が主食にするコメは、イネという植物の種子だ。水稲の根が水に浸かり、葉は水面上に出た状態で栽培するが、洪水で全体が水没するとイネは死んでしまう。

テラノヴァを出たあと、カリフォルニア大学デイビス校に向かい、植物遺伝学の専門家のパメラ・ロナルドに会った。南アジアのある地域では、気候変動で洪水の被害が悪化しているという。ロナルドは、2006年に誕生した冠水に耐えうるイネの新品種の開発に携わった。いまでは、バングラデシュやネパール、インドで600万軒の農家がこの新品種を栽培している。

ロナルドのオフィスに、大雨の中で苦労して畑を耕そうとする農民を描いた絵が飾られていた。農耕の歴史は自然への介入の繰り返しだ。人類は植物を採集して栽培し、収穫量を上げたり品種改良を行なったりしてきた。

ロナルドの場合は冠水に強いが収穫量の少ないイネに分子ツールを使い、どの遺伝子がイネに水没への耐性をもたせているのかを特定した。その後、フィリピンの国際イネ研究所(IRRI)の研究者らと協力して、水没に耐性のある種と、いくつかの収穫量の多い品種を交配し、その苗から望ましい遺伝子マーカーをもつものを選り分けたのだ。こうして洪水に強い品種「Sub1」が誕生した。

Sub1はほかの種の遺伝子を組み込んでいないことから、遺伝子組み換え作物とは見なされない。ただ、ロナルドは気候変動の影響緩和や低所得の農業生産者を助けることが目的であれば、遺伝子操作技術を活用すべきだと考えている。「気候変動に対処するには、あらゆる選択肢が必要なんです」と彼女は語る。

例えば、細菌由来の遺伝子を組み込み、気温が高い地域に多い特定のガの幼虫を寄せつけなくなったナスの遺伝子組み換え品種がある。バングラデシュで商業栽培されているが、この品種なら高価で有害な農薬を毎日散布せずに済むのだ。

一方、高級な自然食品を扱うスーパーの店内を歩けばわかるが、環境意識の高い富裕層は遺伝子組み換え食品を避ける傾向にある。有機農業に取り組む生産者の団体も、干ばつ耐性が目的であったとしても遺伝子組み換え作物を「オーガニック」に含めることには概して反対してきた。

理由は大まかに3つある。まず、遺伝子組み換え作物は種子の値段が高いこと。次に、除草剤耐性品種の栽培には除草剤が使われること。そして安全性についての漠然とした懸念だ。

確かに高額な種子はあるが、非営利団体が開発したものはそうではなく、Sub1がそのいい例だ。それに、グリホサート系の有害な除草剤が使われるのは除草剤耐性のある遺伝子組み換え作物に限られる(さらに、かつては遺伝子組み換え作物よりほぼ間違いなく人体に影響のある除草剤が、遺伝子組み換えでない作物に使われていたことも考慮すべきだ)。そして、安全性に関しては健康に悪影響を及ぼす心配はないと科学的に証明されている。

商業生産される遺伝子組み換え作物は除草剤耐性や害虫抵抗性を目的としたものがほとんどだが、気候変動に対応する品種も登場し始めた。有効性の評価は分かれるが、北米ですでに干ばつに強い遺伝子組み換えトウモロコシの栽培が行なわれている。

米国やブラジル、パラグアイ、アルゼンチンでは干ばつ耐性のある遺伝子組み換え大豆が承認されており、作付けが始まる見通しだ。また、慈善団体が資金を提供したことでアフリカの農家のために干ばつに強く害虫抵抗性のあるトウモロコシを開発する研究が進み、2023年までには現地で栽培を開始しようとしている。