農業の『未来創世記』:気候変動アクティビストのための、遺伝子とオーガニック再考

 地球温暖化の主な原因とされる温室効果ガス。その総排出量の24%は農林業によるものだという。人類が気候変動に対処しつつ食糧不足に陥らないためには、いまやあらゆる手段を講じる必要に迫られているのだ。いまだ漠然とした不安が拭えない「遺伝子組み換え作物(GMO)」から環境再生型農業まで、地球にもよい農業の種(ヒント)を追いかけた。(雑誌『 WIRED』日本版VOL.40に掲載した記事の完全版)

TEXT BY EMMA MARRIS

PHOTOGRAPHS BY CODY COBB

TRANSLATION BY CHIHIRO OKA

WIRED(US)

誰かがピーナツバターのサンドイッチとオレンジだけで生きられると言っていた。本当かどうかは知らないが、ちょっと遠出をするときのランチにはいいかもしれない。

2019年12月のある日。凍えるような寒さの霧の朝、わたしはオレゴン州クラマスフォールズにある自宅からカリフォルニア州セントラルバレーに向かう準備をしていた。セントラルバレーは米国の農業の中心地で、国産の野菜の3分の1、果物とナッツの3分の2がここで生産されている。

キッチンでパンにピーナツバターを塗りながら、食品のパッケージを眺める。9種類の穀物が入った雑穀パンは、「自然由来の原料」でできているとの記載があった。なんだか漠然とした表現だ。オレンジは「地元産」で、ピーナツバターには「遺伝子組み換えではない(NON-GMO)」と書かれていた。 地球温暖化への懸念が高まるにつれ、食品パッケージに記載される「ナチュラル」という言葉には、環境への配慮も意味すると思い込む傾向が拡まっているように思う。ただ残念ながら、キッチンに並ぶ食品のラベルは、その食品が気候変動にどう関係するのかは、ほとんど何も語らない。

ナチュラルもそうだが、食品ラべルに書かれた言葉には明確に定義されていないものがある。米農務省(USDA)のオーガニック認証は、その食品が特定の化学物質を使わない土壌で栽培され、遺伝子組み換えではないことを示している。ただ、オーガニックだからといって気候変動への影響が小さいと保証されたわけではない。

 テラノヴァ農場はカリフォルニア州セントラルバレーにあり、農場の近くにはキングス川が流れる。

オーガニックだけが最適解?

有機農業では一般的に、農薬や化学肥料を使う従来型の農業より広い土地が必要とされる。耕作地を確保するために森林を切り開けば、二酸化炭素(CO?)の貴重な吸収源が、逆に排出源になってしまうのだ。一方、従来型農業は土地利用は少ないかもしれないが、化学肥料によって亜酸化窒素(N?O)と呼ばれる温室効果ガスが発生してしまう。

それから、温室効果ガスの排出量が最も少ない食品がわかるような公的な指標は存在しない。しかも、消費者は気候変動関連の情報には注目していないようだ。ある調査によれば、持続可能性に対する意識が高い米国の消費者はオーガニックのコーヒーなら平均で1.16ドル(約120円)高くても購入するが、カーボンフットプリント(CFP)表示のある商品に余計な金額は払わないことがわかったという。

オーガニック表示が20年という時間をかけて消費者の意識を変えてきた結果だろう。同時に、わたしたちは食品に関して現在進行形の危機をきちんと把握できていないということもわかる。これは大きな問題だ。

畜産を含む農林業は、世界の温室効果ガスの総排出量の24%を占めているという。わたしたちはこの先、温室効果ガスの排出を抑えながら増加する世界人口を養うという非常に難しい問題に直面するだろう。しかも、気候変動による異常気象の深刻化が同時に起きているという状況だ。