人間の言語から構築したAIモデルが、「ウイルスの変異」も予測する

ILLUSTRATION BY ELENA LACEY
ILLUSTRATION BY ELENA LACEY

 ウイルスは免疫システムを回避するために、どのように進化しうるのか--。新型コロナウイルスの変異株が世界的に広がるなか、今後の対策に向けて重要なウイルスの変異を予測するための研究が進められている。鍵を握るのは、人間の言語をモデル化した人工知能(AI)だ。

TEXT BY GREGORY BARBER

TRANSLATION BY YUMI MURAMATSU

WIRED(US)

ウイルスは繰り返し増殖していく。細胞へと侵入し、細胞内の工場を乗っ取ってウイルスをコピーさせるのだ。

こうしてつくられたコピーは、同じことをするようにという指示を携えて別の細胞へと向かう。何度も何度も向かう。だが、この繰り返されるコピー&ペーストのなかで、ときに突然変異が生じることがある。

その結果はさまざまだ。例えば、アミノ酸が生成されず、重要なたんぱく質にフォールディング[編註:たんぱく質を構成するアミノ酸が直鎖構造から折り畳まれ、生理的機能を発揮する三次元構造になること]が起こらないことがある。ウイルスにとって、この突然変異は行き止まりだ。また場合によっては、同じたんぱく質をエンコードする別の配列がエラーを補うことで、突然変異が何の影響も与えない場合もある。

だが、ときおり突然変異が完璧にうまくいく場合がある。ウイルスの生存能力には影響しないが、人間の免疫システムがウイルスを認識しづらくなるといったウイルスにとって役立つ変更が加えられるのだ。こうして過去の感染やワクチンによって生成された抗体を回避できるウイルスは、「エスケープ変異」したと言われる。

ウイルスと言語の共通項

科学者たちは常にエスケープ変異の可能性を警戒し、その兆候を探している。それはもちろん、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)でも同じだ。新しい変異株の出現に合わせて科学者たちは、ウイルスの遺伝的変化が長期間持続するワクチンにとって何を意味するのか調べている(これまでのところ、うまくいっているようだ)。

エスケープ変異は、日常的に免疫システムを回避するインフルエンザやHIVの研究者たちも悩ませている。このため科学者たちは、今後起こりうる事態を予測する取り組みのなかで、研究室で仮の突然変異株を作成し、最近感染した患者やワクチン投与を受けた人から採取した抗体を、変異株がどのように回避するのかを確認した。

しかし、遺伝コードにはあまりに多くの可能性があり、ウイルスのあらゆる進化の可能性すべてをテストすることはできない。どれだけテストできるかという問題になる。

新型コロナウイルスの感染拡大が始まった昨冬、マサチューセッツ工科大学(MIT)の計算生物学者でジョン・ダンの叙情詩の愛好家でもあるブライアン・ハイは、あるアナロジーが頭に降りてきた際にこの問題について考えていた。そのアナロジーとは、「もし書き言葉を考えるような方法でウイルスの配列を考えたら」というものだ。

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