大滝詠一「A LONG VACATION」40周年 名盤はこうして誕生した

 かつて川端が大滝を自宅に訪ね、歌手、清水健太郎の新曲を依頼して以来、2人は親交があった。清水の新曲は形にならなかったが、大滝は須藤に「あなただけI LOVE YOU」を提供した。川端は「これは、『夢で逢(あ)えたら』に並ぶ隠れた名曲」と胸を張る。

 大滝はこれに続く新曲を書き下ろしたわけだが、川端がそれを没にした。「大滝さんが自分で歌ったほうがいいのではないか、という直感が働いたから」と川端は説明する。

 この川端の直感は正しかった。大滝は、これを自分で歌い、「A LONG VACATION」の開幕を飾る「君は天然色」に仕立てるのだ。

 ■ナイアガラサウンド

 このように没にされて日の目を見ない新曲がたまる一方、大滝はCMソングなどで新しいサウンド作りの実験も試みていた。その総仕上げが55年3月に行われた「あなただけI LOVE YOU」の録音だった。

 川端によると大滝は、ソニーの録音スタジオに4台のピアノ、4台の打楽器、5台の生ギターを運び込ませた。ベース、エレキギター、ドラムとともに、これらを同時に演奏しようというのだ。録音技師は、吉田保。大滝とは旧知だが、このとっぴなアイデアに不機嫌になったと川端は記憶している。

 だが、大滝はやってのけた。後に「ナイアガラサウンド」と呼ばれる独特の響きを得ることができた。

 ■君は天然色

 川端は、ボストンバッグ2つ分のレコード・コレクションを大滝に譲ってCBSソニーとの契約を勧誘。社内の根回しも済ませ、パシフィックの朝妻を訪ねて大滝の新作を作りたいと伝えたという。

 だが、40年も前の話で、朝妻のほうは覚えていない。朝妻の記憶では、54年の暮れに大滝が訪ねてきて米歌手、J・D・サウザーのシングル曲「ユー・アー・オンリー・ロンリー」のようなサウンドのアルバムを作りたいというので、それならばCBSソニーがよかろうと勧めた。

 いずれにしても大滝は翌4月、吉野という優れた技術者がいるソニーのスタジオで「A LONG VACATION」収録曲の伴奏の録音を始めた。手始めは川端に没にされた「君は天然色」だ。続いて「Velvet Motel」「カナリア諸島にて」「FUN×4」…。松本の歌詞は、まだできていなかったが、大滝はカラオケを次々に仕上げた。

 「カナリア諸島にて」以外は、53年から54年にかけて没にされたCMソングや他人用の曲だった。

 ■ヒットメーカー

 ただ、大人数での録音で制作費はふくれあがっていた。支払いを一時的に立て替えていたパシフィックの朝妻は、「当時の水準でいうとアルバム4、5枚分かかった」と記憶している。

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