「大都市の東京に、明治神宮の百年の森。これは奇跡です。それも人工の森ですよ」。解剖学者の養老孟司さん(83)は、昨年11月刊行の絵本「100さいの森」(松岡達英著、講談社)の帯に、こんな推薦文を寄せた。平成23年からの第二次明治神宮境内総合調査で調査委員会顧問も務めた養老さん。明治神宮の価値をどう見ているのだろうか。
人と共生する緑
--約100年前に造られた人工の森が、都会で豊かに育ちました
「一つの考え方としては、100年辛抱すれば、あそこまで環境は戻るということです。その証明になったという意味が大きいんじゃないでしょうか。日本は人工林を含めて国土の7割近くが森で、逆に言うとあまり大事にしないんですが、でもあれだけ立派な森は100年の辛抱だということがよく分かります」
「明治神宮の森は50年前にも調査されていますが、今回行ってみて、非常によく昔の状況が残されていることにびっくりしました。ただ、前回も参加したダニの専門家の青木淳一さんが、森のダニの種類が半分になっていると、それだけが大きな違いでした。乾燥の影響ではと言っておられましたが、それは日本全体に言えることです。地球温暖化ばかりが注目されていますが、地面をどんどん舗装して雨水を保持するはずの地面が乾いてきている。それが明治神宮の森にも影響している。環境的にはそれが一番気になりました」
--本多静六らは150年の遷移を見越して森を造り、その後は手を加えない「天然更新」に委ねました
「今にないこととしては、100年、200年を見据えてやったということです。同じようなものに伊勢神宮の森があり、これも大正時代に考えられています。森は非常に長い目で見なければならず、いわゆる自然の保護に関してとてもいいテーマだと思います」
「日本の自然は非常に丈夫で強く、放っておくとすぐ緑になる地面は世界で珍しい。よく熱帯雨林が自然の象徴として写真に出ますが、アマゾンのジャングルは一旦切ると、簡単には回復しない。日本人はあまりありがたいと思っていないんですが、明治神宮は日本の自然の象徴みたいなものです。私の自宅は鎌倉で、よく『緑があっていいですね』と言われますが、そんなもの、過疎地に行けばいくらでもあります(笑)。人の住んでいる所にどうやって森を上手に残して配置していくかは、日本の大事な問題だと思います」