鑑賞眼

「BARNUM」 エンタメの尊さ、心に響く

【鑑賞眼】「BARNUM」 エンタメの尊さ、心に響く
【鑑賞眼】「BARNUM」 エンタメの尊さ、心に響く
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 映画「グレイテスト・ショーマン」で日本でも広く知られるようになった興行師、P・T・バーナムの生涯をミュージカル化した「BARNUM(バーナム)」。コロナ禍でなければ劇場をサーカス小屋のような空間にして…と夢も広がるが、残念ながらステージを飛び出してのパフォーマンスはお預け。その分、凝縮されたドラマが味わえる。

 ほぼ出ずっぱりのバーナムを演じる加藤和樹は、1曲目から、半音階に細かい言葉を載せる難曲を歌いこなし、数々のミュージカルで主演してきた実力を見せた。博物館の収蔵品を次々紹介する「博物館ソング」も聞きやすく、観客を一気に博物館へといざなう。

 9年前、初めて取材した加藤は、「ダンスができないので、実はミュージカルは苦手」と語っていた。だが、その後のミュージカル界での活躍は言わずもがな。歌はもちろん、身のこなしも軽やか、どんな役をやらせてもなじむのが加藤の魅力だ。

 バーナムは興行師として成功を収めるも、一瞬でそれを失う。妻、チャイリー(朝夏まなと)が求める堅実な人生を歩み始めるものの、本当に大事なものは何かを考え直し、興行の世界に舞い戻る。歌姫、ジェニー・リンド(フランク莉奈、綿引さやかのダブルキャスト)との火遊びはあるが、根底にあり続けるのは夫婦愛だ。冒頭で音程が不安定な部分もあったが、しっかり者で愛する夫に甘い妻を、朝夏が実に魅力的に演じた。

 別格の存在感を示したのは、中尾ミエだ。ミュージカル「ピピン」(令和元年)でも観客の度肝をぬいたが、今回も160歳の女性を楽しく演じたかと思えば、張りのある歌声で舞台を引き締めた。元々の自身の役に加え、のどの不調で降板した藤岡正明の代役もつとめた矢田悠祐の巧みな演じ分けにも、拍手を送りたい。