鑑賞眼

宝塚歌劇団雪組「fff」「シルクロード」  最大限の歓喜で締めくくる退団公演

【鑑賞眼】宝塚歌劇団雪組「fff」「シルクロード」  最大限の歓喜で締めくくる退団公演
【鑑賞眼】宝塚歌劇団雪組「fff」「シルクロード」  最大限の歓喜で締めくくる退団公演
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宝塚歌劇団随一の歌唱力を誇る雪組トップコンビ、望海風斗(のぞみ・ふうと)と真彩希帆(まあや・きほ)のサヨナラ公演「fff 歓喜に歌え!」。昨年のベートーベン生誕250周年に合わせて上演予定だった作品だが、コロナ禍で延期されていた。音楽家として致命的といえる失聴や、失恋など数々の困難にも屈することなく、歓喜を歌い上げる交響曲(第九)を生んだ楽聖の喜怒哀楽を、望海が文字通り「fff」(音楽用語で「最大限に強く」)で熱く、激しく演じている。上田久美子作・演出。

何しろ物語のスケールの大きさと、トップ2人の抜群の歌唱力に、呆気(あっけ)にとられる舞台である。天上界とこの世が交錯し、またルードヴィヒ・ヴァン・ベートーベン(望海)が活躍した19世紀、同時代を生きたナポレオン(彩風咲奈)やゲーテ(彩凪翔)との関わりも描かれる。さらにルードヴィヒの分身的な存在「謎の女」(真彩)も登場、これらが一つの物語に収れんしていく。

その最終ゴールが、「第九」誕生である。ルードヴィヒの苦難続きの人生をたどり、最後に黒白が反転したかのように歓喜の歌へと昇華する、これはハッピーエンドの舞台なのだ。そこに至るまで、ルードヴィヒが絶望と孤独の中、「謎の女」との自問自答を繰り返しながら、全身から音楽を絞り出す姿は、鬼気迫る。

特徴的なのが史実にはないナポレオンとの邂逅(かいこう)で、ルードヴィヒの夢の中の出来事として描き、辛酸をなめる天才同士が心を通わせる。そして夢から覚め、厳しい現実の中でルードヴィヒは謎の女から銃口を向けられるが、死に逃げることなく、人生の最後に歓喜の交響曲を響かせる-。

望海は感情のふり幅が大きい、宝塚の主役らしからぬ狂気じみた天才を、入魂の演技でまっすぐ演じる。登場からして劇的で、コロナ禍でオーケストラ不在のピットから指揮棒を持って現れ、髪を振り乱して楽団員役の後輩らを率い、演奏を再現する。卓越した歌唱力を生かし、声だけのアカペラで聴かせる場面もあり、力強いアルトに聞きほれた。