高裁レベルでは昨年、同性の事実婚カップルを法的に保護すべきだとする判断が示された。女性同士のカップルが一方の不貞行為で破局したことの損害賠償を求めた訴訟で、1審宇都宮地裁真岡支部は令和元年9月、「同性カップルも一定の法的保護を与える必要性は高い」と指摘。男性(後に女性に性別変更)と不貞行為をした女性に対し、110万円を支払うよう命じた。2審東京高裁判決も昨年3月、同性カップルを「婚姻に準ずる関係にあった」とし、1審判決を支持した。
法律家の間では長らく、婚姻関係にある男女の一方が同性と不倫をしても不貞行為に当たらないとの見方が有力だった。男性と性的関係があった夫との離婚訴訟で、夫と男性の関係について、民法770条で定める5項目の離婚事由のうち、不貞行為ではなく「その他の婚姻を継続しがたい重大な事由」と位置付ける名古屋地裁判決があったことなどが影響している。
ただ、この判決は昭和47年のもの。夫が男性に付きまとったという事情もあったが、夫を「性的に異常」と指摘し、「妻が夫の同性愛を知ったことによる衝撃の大きさを考えると婚姻関係を取り戻すことはまず不可能」とするなど、性的少数者への配慮が少ない時代を反映した内容だった。
今回の訴訟で、原告代理人は、同性カップルが家族として共同生活を送る例もある社会的実態を考慮すれば、不倫が既存カップルの関係性を脅かす可能性があることは、異性間でも同性同士でも変わらないと指摘した。原告側の主張を認めた形となった東京地裁判決について、ベテラン民事裁判官は「時代とともに解釈は変わる。同性婚の議論などもある現在において、今回の判断に違和感はない」と話す。
早稲田大の棚村政行教授(家族法)は「おそらく同性同士の不倫について正面から争われた例は過去になく、今回の判決は注目に値する」と指摘。「相手への感情は異性間と変わりないという意味で、同性カップルも法的に保護され、一方で不倫があれば不貞行為と判断される必要があった。性的マイノリティーへの理解が司法でも一定程度進んでいることを示した判断として意義があり、実務上も参考になる」と述べた。(加藤園子)