【ビブリオエッセー】彩り豊かな往時を知る 「日本の色辞典」吉岡幸雄(紫紅社) - 産経ニュース

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彩り豊かな往時を知る 「日本の色辞典」吉岡幸雄(紫紅社)

 駅置きの情報紙につい手を伸ばすのが習慣だ。何より無料である。沿線イベントに興味をそそられ、外出控えめの今は美しい写真を見ては気分を味わっている。最近では色鮮やかに染め上げられた布の写真に心惹かれた。染織史家、吉岡幸雄さんの回顧展の紹介だった。

 時代小説が好きだ。作品には色の和名がたくさん出てくるが、どんな色かわからない。たとえば甕覗(かめのぞき)や鉄納戸(てつなんど)と書いてあっても色をイメージできないと頭の中の映像が白黒になってしまう。以前はスマホで検索していたが調べては忘れてしまうので、この本を買った。

 最初は小説を読みながら色を確認するための文字通り辞典として使っていたが、じっくり読むと原材料や染め方、いつごろから使われ出した色なのかという歴史、古典での取り上げられ方など初めて知ることばかり。赤系、紫系、青系、緑系と多くの同系色を味わえ、鶸萌黄(ひわもえぎ)とか今様色、波自色(はじいろ)とか命名も洒落ている。見ても読んでもためになり、日本の伝統色についての初心者向けの専門書といったところか。

 その後、著者がどんな人か知ったのは正倉院宝物の染色の復元に試行錯誤する姿をテレビ番組で見たときだった。江戸時代から続く京都の染色工房の当主で、染織史家として古来の文献や遺物などで伝統色を研究し、その保存と復興につとめてきた。この本も実際に染色の実践を繰り返して生まれた労作だった。

 実は情報紙に誘われて先日、京都で開催中の回顧展を見てきた。『源氏物語』に出てくる数々の色を再現した展示や古裂(こぎれ)の実物を見て納得し、着重ねた装束の配色の妙「襲(かさね)の色目」を味わい、いにしへの色彩の奥深さ、古人の感受性の豊かさを感じた。

 時代小説がますます読みたくなった。

 兵庫県西宮市 杉本ナオ 58

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