派遣警察官の10年 東日本大震災

被災者の声、冷静に耳傾け 警視庁池袋署交通課 田中裕美巡査部長(34)

避難所で被災者と向き合った日々を振り返る田中裕美巡査部長(中村翔樹撮影)
避難所で被災者と向き合った日々を振り返る田中裕美巡査部長(中村翔樹撮影)

東日本大震災から2カ月後の平成23年5月。宮城県石巻市の避難所で、「どんな顔をして被災者に会えばいいのか」と当惑した。街は空襲の跡にも例えられた荒れ果てた状態。日常のすべてを奪われ、身を寄せ合って過ごす人々から、痛切な思いを聞き取る-。背負った任務を前に、身体が一瞬、固まったことを覚えている。

「力になりたい」

3月11日。当時所属していた警視庁特科車両隊の新宿区内の庁舎で、揺れに見舞われた。即日、被災地派遣が決まった先発隊のため、食料などをバスに詰め込み、送り出した。ひと息ついたころで、テレビで被災地の惨状を目の当たりにした。日を追うごとに明らかになっていく未曽有の被害。

「何か力になりたい」。警察官を志した当初から持つ思いが、自然と湧いて出た。人命救助とは異なり、被災者の不安軽減や心のケアを企図して発足した「警視庁きずな隊」のメンバーとして、現地に入った。

当時24歳。避難所に多かった高齢者は、孫のような年齢の自分からの声かけで、せきを切ったように話し始めた。「意を決し、こちらから自己紹介をすると、あとは本当に、ワーッと」。自宅を襲った津波で顎まで水につかったこと、長年の伴侶の遺体が見つかっていないこと-。気づけば数時間が過ぎ、さっきまでの不安は、杞憂(きゆう)に終わった。

約2週間の滞在中、印象深かった出会いがある。

「夢、もう一度」

市内の避難所の共有スペースで、少女が1人、パソコンの画面を眺めていた。背中から、元気のなさが見て取れた。何気なく声をかけた。

地元の高校に通う3年生で、剣道が2段の腕前であること。将来、警視庁の警察官を目指していることを打ち明けてくれた。自身も剣道4段で話がはずみ、次のきずな隊に、採用案内の書類を持ってきてもらうようお願いした。「被災し、夢をあきらめかけていた。もう一度、頑張ります」