鑑賞眼

国立劇場「時今也桔梗旗揚」 身に染みる光秀の悲哀

春永役の彦三郎が、赤っ面の敵役になり切って憎らしく、実にいい。菊之助演じる眉目秀麗、理路整然とした光秀とは対照的で、瞬間湯沸かし器のように予測できない横柄な態度で、虫の好かぬ光秀を底意地悪く追い込む。当初は感情を必死に抑え、冷静な対応する光秀だが、我慢に我慢を重ね、糟糠の妻が売った切り髪を見せられる侮辱に至って、手をブルブルと震わせる。会場が静まり返り、観客がみな光秀に心を寄せているのが分かった。

陰湿なイジメの連続である。目をそむけたくなるが、様式できれいに見せてしまうのが歌舞伎のマジック。菊之助は、光秀を当たり役とする義父、吉右衛門に憧れ、この役に初挑戦した。パワハラ主君への戸惑いから悲嘆、そして怒りを募らせる感情の変化が鮮やかで、理不尽に翻弄される姿は息苦しくなるほど。辛抱立役だが、せりふや動きの随所に吉右衛門の指導が感じられる。また菊之助、彦三郎、萬太郎、春永寵臣・力丸役の中村鷹之資(たかのすけ)と主要な若手がいずれも声がよく、この陰々滅々とした芝居を爽やかに彩る。悲運の兄、光秀を支える桔梗(ききょう)役、坂東新悟の楚々として耐えるいじらしさも、印象に残った。

「愛宕山」では、決起の覚悟を決めた菊之助の顔つきが、すっかり変わって別人のよう。近年の菊之助の充実ぶりには、目を見張る。こうした古典の大役を一つ一つものにしながら、新作でも「極付印度伝 マハーバーラタ戦記」(2017年)、「風の谷のナウシカ」(19年)と着実に成果を上げており、今後も目が離せない。

27日まで、東京・半蔵門の国立劇場。11、19両日は休演。0570・07・9900。(飯塚友子)

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