鑑賞眼

国立劇場「時今也桔梗旗揚」 身に染みる光秀の悲哀

【鑑賞眼】国立劇場「時今也桔梗旗揚」 身に染みる光秀の悲哀
【鑑賞眼】国立劇場「時今也桔梗旗揚」 身に染みる光秀の悲哀
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あらゆる勤め人が大なり小なり経験する、上司の理不尽。謀反人の汚名を着せられた明智光秀(劇中では武智光秀=尾上菊之助)について、四世鶴屋南北は単純な悪役にはしない。「時今也桔梗旗揚(ときはいまききょうのはたあげ)」で本能寺の変に至るまで、光秀が織田信長(同、小田春永=坂東彦三郎)から味わわされた数々の非道な仕打ちを描き、決起に至るまでを、虚実込みでたどる。役者の好演もあって、歯ぎしりしたくなるような勤め人の辛さが身に染みた。中村吉右衛門監修。

2月に終了したNHKの大河ドラマ「麒麟がくる」の主人公として、改めて注目を集めた光秀。今舞台も大河を意識し、オープニングでドラマのテーマ曲が流れ、本編の前に「歌舞伎の明智光秀」の一幕があり、片岡亀蔵が案内役になる。春風亭一朝を義兄に持ち、落語と縁の深い亀蔵ならではの軽妙な話術で、作品や時代背景を映像も用いて紹介。満座の中、春永が光秀に馬盥(ばだらい、馬を洗うときに用いるたらい)で酒を飲ませる有名な場面については、「今なら掃除のバケツで酒を飲ませるようなもの。パワハラです。SNSで拡散されます」と客席を沸かせる。

今回上演されたのは、光秀が春永から侮辱される「饗応(きょうおう)」「本能寺馬盥」と、反乱を決意する「愛宕山連歌」の場面。「饗応」では、光秀による接待の準備が気にくわぬと春永が突然、膳などを蹴り上げ、光秀が理詰めで弁明。その冷静さが怒りに油を注ぎ、春永は寵臣・森蘭丸(中村萬太郎)に、鉄扇で光秀の眉間を打たせる。さらに「馬盥」では衆目の中、光秀は屈辱の酒を飲まされたばかりか、過去の極貧生活で売らざるを得なかった妻の髪まで見せられる。

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