東日本大震災10年

コンビナート火災を消火 経験を継承へ 市原市消防局消防総務課長の天野正次さん(55) 

市原市消防局の天野正次消防総務課長
市原市消防局の天野正次消防総務課長

国内最大級の石油化学コンビナート地帯である千葉県市原市の臨海部。東日本大震災の発生から2時間あまりたった午後5時ごろ、轟音(ごうおん)とともにオレンジ色の火柱と黒い煙が立ち上った。

別の場所で職務に当たっていた同市消防局中央消防署員(現・同市消防局消防総務課長)の天野正次さん(55)も、その衝撃的な光景を目にした。「負傷者、もしかしたら殉職者が出たかもしれない」。天野さんは最悪の事態を覚悟した。

火災が起きたのは、コスモ石油千葉製油所。同市で震度5弱を記録した本震でガスタンクの支柱筋交いの多くが破断したところに、約30分後の余震が追い打ちをかけた。支柱が倒壊するなどし漏れたガスに何らかの原因で着火した。爆発は5回に及んだ。

消火作業は困難を極めた。ガスが漏れているため、直ちに消火を行うと、再びガスが滞留してさらに爆発が起きる恐れがあったからだ。そこで同市消防局は、ガスの供給源を調べて可能な限り遮断しながら、延焼して被害が広がらないように火災を制御した。

鎮火したのは10日後のことだった。6人が重軽傷を負ったが、死者は出なかった。当時現場で指揮をした天野さんは、「火災をコントロールするためにはガスの状況を的確に把握する必要があった」と振り返る。コスモ石油などの事業者と連携しながら、慎重に消火を進めたという。

この時の教訓から、同市消防局は震災の翌年、石油関連企業など約50の事業者が参加する事故事例研修会を始めた。これまでに16回行われ、事故を起こした事業者自らが事故原因を発表する形式で情報の共有を行ってきた。

通常の火災とは全く違う現場で消火作業に当たった天野さんは、自身の経験や知識を後進に伝えてきた。「若手や中堅も育ってきている」と手応えを感じている。

国も対策を進める。消防庁は平成27年、石油コンビナート火災などの特殊災害に特化した部隊「ドラゴンハイパー・コマンドユニット」を同市消防局などに配備。同ユニットの特長は一般的な消防車の約4倍の毎分8000リットルの放水が可能な大型放水砲車と、海や川などからの取水が可能な大容量送水ポンプ車だ。大型放水砲車は全長1キロのホースを備えており、組み合わせて使用することで、遠距離にある水源からでも大量放水が可能となる。

令和元年には、情報収集から放水活動までを自動的に行う消防ロボットシステム「スクラムフォース」が全国で初めて同市消防局に配備された。今年4月から実戦配備される予定で、ガスなどの危険物の漏洩(ろうえい)により、隊員が近づくことができない現場での消火活動が可能となる。

天野さんは、「経験を生かして訓練を行うとともに、最新の機材を最大限活用し、特殊災害にもしっかりと対応していきたい」と力を込めた。(長橋和之)