朝晴れエッセー

ひょうたん島とコーヒー・3月8日

10年が経つ。

東日本大震災発生の10日前、母をがんで亡くした。兄弟で集まって遺品整理、保険手続き、役所への届け出と忙しい、というより忙しくもしていないと気が紛れぬ最中に、未曾有の大災害が東北地方を襲った。

同年11月、交代休に合わせて被災地へボランティアに赴く機会を職場で与えられ、手を挙げた。

東北にルーツをもち、生前はボランティア活動に熱心だった母。今生で果たしてこの災害を知るよしもなかったが、元気だったら必ず行くと言ったはず…。一緒に行くか。写真をパスケースにしのばせてその一行に交じった。

限られた時間だったが、岩手県の大槌(おおつち)町の海岸道路で瓦礫(がれき)をどけ、側溝の泥をかいた。休憩時間、遠野からのボランティアの「じっちゃん」らに、大阪から参加の私に「秀吉」のあだ名をちょうだいし、遠野出身選手が多いサッカーが町の人気という話題などで歓談した。

そのときにじっちゃんがいれてくれたコーヒー。魔法瓶のお湯を注いだインスタントだったが、今もなおあの味を超えたものに出会うことはない。目を閉じると、そこに母もうれしそうに飲む姿が浮かんだ。

コーヒーで元気百倍、後半もまだまだ働きたかったが、撤収時間。去り際にパスケースの母を大槌の海に向ける。見えるか。あれはひょっこりひょうたん島のモデルの蓬莱(ほうらい)島だ。

帽子を取り黙祷(もくとう)。どこまでも限りなく凪(な)ぐ海に。

大村昌(47) 兵庫県川西市