春のそぞろ歩きは無理もない。二十四節気の啓蟄(けいちつ)の知らせも聞いた。冬籠もりをしていた虫も穴から出てくるころである。柳の浅緑が陽春を含んでそよぎ、雪柳は小さい花を連ね始めた。「春の野や何に人行き人帰る」。正岡子規の句には春を愛する心情がにじんでいる。
▶ただしいわずもがなだけれど、今年の春は要注意。新型コロナウイルスの緊急事態宣言の扱いは東西で異なったが、解除された関西の街に出てみると人出は思っていた以上に多い。経済の軌道を戻しつつ感染拡大を抑えるという、双方に気を配る必要がある。気を付けながらそろりと暮らしを戻していく、と構えておいたほうがいい。
▶春の気配はささやかなところでも楽しめる。子規の句でいえばこんなのもとてもいい。「何の木としらで芽を吹く垣根哉(かな)」。いまの時代は垣根を見かけることも減ったが、街の植え込みでも風の気配でもいい。コロナに疲れた現代のそこここにも春は来ている。