理研が語る/科学の中身

生と死と生命科学

【理研が語る/科学の中身】生と死と生命科学
【理研が語る/科学の中身】生と死と生命科学
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 研究広報の仕事として、高校生に最新の生命科学研究を紹介する機会がある。理研を見学しにくるくらいだから、基本的には理科好きの生徒さんが多い。でもできれば、文系志望の生徒さんや引率のため仕方なく(?)ついてこられた理科以外の先生にも、何か心に残るものを伝えたい。

 そこでまず、生命科学と私たちの関わりを考えてもらうきっかけとして、厚生労働省が毎年出している「主な死因別にみた死亡率の年次推移」のグラフを見せることにしている。日本人がどのような理由で亡くなったかを、昭和22(1947)年から示した統計だ。

 病気の名前を隠して、第二次大戦直後の死因トップをあててもらう。昭和20年代から右肩下がりになり、現在では主な死因の最下位になったのは何か。「国語の教科書などで、近代の文学作品や作家の生涯について書かれたものに必ず出てくる病気があることに気づきませんか?」とヒントを出すと、はっとした顔で「結核」と答えてくれる。

 人類の歴史の大半は、結核のような体の外から来る病気=感染症との闘いであり、医学・生物学がこれを克服できるようになったのはつい最近のことなのだ(今も闘いは続いている)。

 では、現在の死因トップは?

 これは多くの生徒さんが「がん」と知っている。がんは、体を構成する細胞のDNAの異常で生じる。すなわち、私たちの体の中に原因がある「内因」の病気だ。細胞を研究し、DNAを研究することは、生きものの基本の仕組みを解き明かすとともに、現在多くのヒトを死に至らしめる病気を理解する営みでもある。

 ここまでが講義の半分で、残りは理研についてと、その時々のホットトピックの紹介となる(それらについては、過去の連載をぜひ読んでほしい)。

 ただ時間に余裕があるときは、もう少しこのグラフの読み解きを続ける。グラフでは、病気以外の主な死因として「不慮の事故」と「自殺」が挙げられている。自殺は若い世代の死因トップであり、経済・社会状況により中高年での比率も高まる現代日本の深刻な課題だ。

 一方、「不慮の事故」のグラフを見ると、2つの奇妙なピークがあることが分かる。一つ目のピークは平成7年。以前は、阪神淡路大震災で亡くなられた方の数が統計に現れたのだとすぐ気づいてくれたが、最近は神戸の高校生でも少し考え込んでしまうようだ。

 二つ目のピークはもちろん、平成23年である。次の大災害時に、私たちはどうやってこのピークを下げることができるだろうか。科学に関係する職業に就くか就かないかに関わらず、今の大人と将来の大人に課せられた難題を、若い人たちとともに考えたい。

 山岸敦(やまぎし・あつし) 理化学研究所生命機能科学研究センター高度研究支援専門職。大阪府出身。名古屋大大学院理学研究科生命理学専攻博士課程を中退後、京都大人文科学研究所、JT生命誌研究館を経て2010年より理研に勤務。震災の時、神戸の親戚に差し入れに行った父の「大阪大空襲を思い出した」という言葉が耳に残っている。

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