【漫画漫遊】「黙食」歴11年、コロナ禍の今  「鬱ごはん」施川ユウキ著  - 産経ニュース

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漫画漫遊

「黙食」歴11年、コロナ禍の今  「鬱ごはん」施川ユウキ著 

(C)施川ユウキ(秋田書店)2013
(C)施川ユウキ(秋田書店)2013

 コロナ禍で「黙食」(食事中の会話を控えること)が推奨される中、11年も前から「黙食」を描いてきた先駆的作品。ネガティブな青年がチェーン店やコンビニなどを一人で訪ね、行き場のない考え事を続ける。食漫画につきものの「ほっこり感」「人情話」を排した異端の作風である。主人公は昨年、フードデリバリーの配達を開始。コロナ禍の現実も描かれている。

 平成22年の連載開始時、22歳だった主人公の青年・鬱野(うつの)は現在32歳。カレンダーをもらっても書き込む予定はなく、誘う友達もいない。一般的な食漫画と一線を画すのが、鬱野にとって食事は楽しむものというより「作業」であること。店員らとは最低限の会話しかしないが、脳内では冗舌だ。おそらく、「一人で外食していると近くのグループ客から見下されてるような気持ちになる現象」といった他作品では描かれにくい感情を、一番深く考察している漫画であろう。

 鬱野は一見、私小説に描かれるような鬱々とした青年に見えるが、破滅に向かうほどのエネルギーは持っていない。他者から見ればさえない日々も、おそらく本人はそこまでつらくなく、それなりに楽しんでいるのだろう。中途半端な感じが逆にリアルだ。「愚かでいるのは一種の快楽だ」など、鬱野の世界観には「こういう発想も存在するのか…」と読んでいてうならされる(役立つかどうかは別)。会食好きが知らない一人飯の魅力や、ハードルが意外と低いことにも気づくはずだ。

 最新刊は2年前に刊行された3巻なのだが、コロナ禍の昨年からの読み応えが特にすごい。緊急事態宣言を受けたアルバイト先の休業。感染者数の数字が気になり、現実逃避として毒にも薬にもならない情報記事を流し見してしまう日々。食事中のマスクの置き場に困ること。国勢調査では可視化されないフードデリバリー配達員の感情…。鬱野の視線には、現代日本が今まさに陥る情景が映し出されている。

 漫画サイト「マンガクロス」でも連載中。一部の話は無料で読める。(本間英士)