鑑賞眼

「キオスク」 等身大の青年の「選択」に余韻じわり

【鑑賞眼】「キオスク」 等身大の青年の「選択」に余韻じわり
【鑑賞眼】「キオスク」 等身大の青年の「選択」に余韻じわり
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 ナチスドイツが台頭する1937~38年のウィーンを舞台に、田舎から出てきた17歳の青年フランツ(林翔太)が大人になっていく姿を描いた舞台「キオスク」。オーストリアの作家、ローベルト・ゼーターラーの小説を元にしたリーディング舞台(19年12月~20年1月上演)に続き、満を持して戯曲版の日本初上演となった。

 演出の石丸さち子は「劇的なできごと」を日常にたぐり寄せる手腕にたけている。17歳のこまやかな感性を、みずみずしいせりふと動きで表現。ウィーンの町を徐々に覆っていくナチスの暗い影を、努めて「日常」に落とし込んだ。印象の強いシーンを影絵で表現する手法は、人々の恐れや不安、惑いといった心象風景を表して効果的だ。

 フランツが働く「キオスク」には、大人になるためのアイテムがあふれている。新聞、たばこ、葉巻、そして官能雑誌。それらを守る店主のオットー・トゥルスニエク(橋本さとし)はフランツのヒーローだ。少ない情報の中から、橋本は情に厚い魅力的なオットーを作り上げた。

 フランツが落とし物を届けたことから親交が始まった精神分析学者のジークムント・フロイト(山路和弘)は父のような友のような人生の師のような存在。山路にかかると、高名な学者が持つ意外に素朴な素顔が自然と際立つ。あくの強い大人にもまれて成長するフランツには、林のフレッシュな魅力が生きた。

 初めての恋の相手、アネシュカ(上西星来)は、生きることを貪欲に追求し、フランツを急速に大人にする。フランツからの視点で描かれる制約ゆえか、少しバラバラな印象になるのがもったいない。郷里の母、マルガレーテ(一路真輝)との頻繁な手紙のやり取りは、フランツの現状説明とともに、ぶれない根っこを確認する作業。ていねいに描くのはいいが、交通整理をしてほしい部分も。それでも、難しい戯曲への挑戦に拍手を送りたい。