「先生の言うことも耳に入らない。すべてがマイナスにしか受け取れない。最後には自分が何に悩んでいるのかすら分からなくなった」
入団2年目の少女が、投げだしたい気持ちに耐えられたのは、毎日、肩を抱いて「大丈夫、きっとやれる」と言ってくれたロレンス神父役の英真(えま)なおきや、先輩たちの温かい言葉があったから。理事となった英真は、今回も礼を見守るように専科から出演している。
礼の「愛」は好評を博した。それは「死」の効果も大きかった。このとき「死」を演じたのは、入団5年目で現在の宙組トップスター、真風涼帆(まかぜ・すずほ)である。
「当時の真風はおとなしく、どこかのほほんとして、自分から前に出たがる子じゃなかった。だからあえて『死』という役をやらせたんです。2人は見事に応えてくれましたよ」と小池氏。そして演出家の稲葉氏も舞台を見て「この2人はきっと将来の宝塚を背負っていくスターになる」と確信したという。
それから11年。トップスターとして初めて礼が演じる「ロミオ」。
「やればやるほど受け身な男なんだなぁと思うんです。こうしたい、ああしたい-と言うのはジュリエット(舞空瞳=まいそら・ひとみ)の方で、ロミオはいい意味で振り回されているんですよ」と笑う。
それも小池、稲葉両氏の新しい演出のひとつ。夢見がちのロミオに対しジュリエットは、女性としてどう生きるか、自分の主張を持った芯の強い女性に描かれている。
礼を中心とした圧倒的な星組の歌唱力、演技力の高さ。いとこのジュリエットを慕い悩むティボルトをメランコリックに演じる愛月(あいづき)ひかる。期待の娘役・有沙瞳(ありさ・ひとみ)はおなかを突き出し、少しだみ声でジュリエットの乳母を見事に演じている。
モンタギュー家とキャピュレット家の争いから生まれた愛と悲しみの物語。誰もが知っているストーリーにもかかわらず、ぐいぐいと物語の中に引き込まれていく。8年ぶりに宝塚の舞台に帰ってきた『ロミオとジュリエット』は見どころ満載である。
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宝塚大劇場は3月29日まで。4月16日~5月23日まで東京宝塚劇場で上演予定。