日本車の信頼を損なう不正が再び発覚した。自動車部品大手の曙ブレーキ工業が、ブレーキとその部品の品質検査データを改竄(かいざん)するなど、約11万4千件にのぼる不正行為があったと発表した。
不正は20年前から続いており、社内で見つかった後も公表を見送っていた。この間には、三菱自動車や日産自動車などの各社で検査不正が相次いで発覚していた。業界全体で再発防止に取り組んでいた最中の出来事である。
曙ブレーキは「安全性に問題はない」と強調するが、同社の製品は日本の主要な自動車メーカーに供給されている。事態の深刻さを認識していたとは思えない。
ブレーキは命に関わる重要部品である。監督当局は安全性を徹底的に検証し、不正行為の公表遅れも含めて厳しい態度で是正を求めてもらいたい。
国内6工場のうち4工場で、車輪の回転を止める部品などの検査不正があった。耐久性検査などでデータを改竄していたほか、検査していないのにデータを報告書に記載していた。うち約4900件は自動車メーカーが求める品質基準を満たしていなかった。
検査は特定の従業員が担当し、チェック機能が働いていなかったという。ただ、自動車メーカーで安全性を確認しており、リコール(回収・無償修理)の対象にはならないとしている。
不正が社内で報告されながら長期にわたって公表を怠ってきたことは、とくに悪質である。北米事業の失敗で経営不振に陥った同社は、令和元年9月に事業再生ADR(裁判以外の紛争解決)の再建計画が承認され、経営陣を一新して再建を進めている。不正は旧経営陣に報告されていたが、適切な対応を取らず、現経営陣もこれを知りながら公表しなかった。
同社の宮地康弘社長は「安全性の問題が発生していなかったため、緊急性があるとは判断していなかった」と釈明した。
だが、自動車各社が検査不正で厳しい批判を浴びたことを知らなかったわけではあるまい。同社でも同じような検査不正を続け、それを隠してきた体質は問題だ。
世界の自動車業界は自動運転や電動化をめぐって激しい競争を繰り広げている。安全性に関わる信頼を損なう不正は、そのまま日本の競争力低下を招きかねないと認識すべきである。