美村里江のミゴコロ

振られてマシュマロ

さて、先週に続く幼稚園時代の話。インフルエンザの高熱で短期的な記憶が飛んでしまった私は、クラスメートからバレンタインを前に「リエちゃんはK君が好きだもんね」と言われ、動揺していた。私の好きだったのはY君のはずでは…。

K君は大変モテる男の子で、屈託ない笑顔で誰にでも優しい性格、程よいやんちゃぶりが保護者のお母さん方からも評判。このK君、私の親友Uちゃんと両思いで、その仲良し具合も含めて女子園児の多くが憧れているようだった。

対して、私の中に「好き」という感覚のあるY君。何が好きだったのか思い出せない。むしろ掃除の時間に誤って私の手を踏み、目が合っても謝らず行ってしまった(仲良くもなかったらしい)。

謎は2つ。なぜK君を好きということになっているのか。そして、私は本当にY君が好きだったのか。本当はK君が好きだったけど、彼は親友の思い人。実らぬ恋を哀れんで脳が記憶を改竄(かいざん)した可能性もあるのだろうか。

混乱の解けぬままやってきたバレンタイン当日。私はどうしたのだろう。周囲の空気に押し流されて鉛筆か何かをK君に渡したのかもしれない。なぜなら、ホワイトデーにお返しがあったからだ。

Uちゃんはかわいいケースに入ったピンクのキャンディーをもらっていて、私を含む10人くらいにアメリカンなデザインの袋入りマシュマロをK君のお母さんが配ってくれた。「好きな子にはキャンディー、ごめんなさいの子にはマシュマロなんだって」というお母さん方の雑談を耳にして、なんとも言えない気持ちになった。好きでもないのに振られた…。その自覚を得て初めて、やっぱり自分はK君を好きではなかったとはっきり分かったのだ。

片やY君は友達とチョコを取り合い、顔を真っ赤にして奇声を上げていた。それを見て「ああ、なんだか分からないけどY君好き」とうれしさに包まれた私。今後はどんな理由でも自分の「好き」を偽装するのはやめようと、幼心に誓ったのだった(しかし初婚時に同じ轍(てつ)を…)。

ところで、頂いたココア味のマシュマロは大変おいしく、私はK君のお母さんに感謝した。今でも時々、特に3月にココアマシュマロを買う。記憶を欠きつつ妙にませていた自分やクラスメートを思い出し、柔らかな甘さを味わうのだ。

【プロフィル】美村里江(みむら・りえ) 昭和59年、埼玉県出身。女優としてドラマや映画に多数出演する一方、エッセイストとしても活動。平成30年に「ミムラ」から改名。著書に『たん・たんか・たん』(青土社)など。