「周回遅れ」国産ワクチンの実用化が急務 政府は支援を強化

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「周回遅れ」国産ワクチンの実用化が急務 政府は支援を強化
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 新型コロナウイルスのワクチン接種が17日から始まった。この日接種されたのは米ファイザー製。国はこの後も英アストラゼネカ製など海外産ワクチンの調達を進めており、国産ワクチンの開発遅れが指摘されている。同日開かれた衆院予算委員会でも国産ワクチンに関して質問が相次ぎ、菅義偉首相は国内生産に向けて関連産業を支援する方針を示した。国際的なワクチン争奪戦も想定される中で、国産ワクチンの実用化が急がれている。

既存の技術を活用

 大阪市内にある治験を専門的に行う病院で、塩野義製薬(同市中央区)が開発中のワクチンの治験が行われている。214人の参加者に3週間の間隔をあけて2回投与し、安全性や、抗体ができるかどうかなどを確認中で、データは今月下旬から集まる予定だ。

 開発中のワクチンは「組み換えタンパクワクチン」と呼ばれるタイプで、すでにインフルエンザワクチンとしても実用化されている技術を活用。木山竜一医薬研究本部長は「副反応や安全性のデータなどについて、医療関係者もある程度把握できる利点がある」と強調する。同社は年内にも3千万人分のワクチン製造ができる生産体制の構築を進めており、「国産ワクチンの技術を確立すれば、変異種や他の感染症の発生にも対応できる」と話す。

 世界保健機関(WHO)のデータによると、世界で60種以上の治験が進んでおり、中でも最終段階である第3相試験に入っているワクチンは15種以上になる。

 「日本の開発は周回遅れ」という指摘もある。国内企業で最も進んでいるのがアンジェス(大阪府茨木市)で第2/3相試験、次に第1/2相の塩野義が続く。第一三共とKMバイオロジクス(熊本市)は、今年3月にようやく治験を始める状況だからだ。

 ただ、大阪健康安全基盤研究所の奥野良信理事長は「実用化の時期に遅れがあったとしても国内企業は着実に開発を進めるべきだ。国内で安定供給される多様なタイプのワクチンの中から国民が接種を選択できるのがベスト」と話す。国内では今、組み換えタンパクワクチンや不活化ワクチン、さらにメッセンジャーRNA(mRNA)、遺伝子を使った先駆的ワクチンといった複数タイプの開発が進む。第一三共も「メード・イン・ジャパンのワクチン品質は必要だと考えている」(広報)とする。

慎重な国民性も影響

 国内のワクチン産業は長く「世界の潮流から取り残されている」と指摘されてきた。日本はこれまでSARS(重症急性呼吸器症候群)などの脅威にさらされなかったことから、国による長期的なワクチン政策や経済的支援が示されず、製薬企業も開発に時間がかかり、副反応のリスクも高いワクチン事業に力を入れてこなかったためだ。

 加えて安全性に対する慎重な国民性もあり、平成元年ごろから十数年間、新しいワクチンの承認が世界に比べて停滞する「ワクチン・ギャップ」も起きた。

 一方、現在、新型コロナワクチンとして世界で接種が進むファイザー製やアストラゼネカ製は、それぞれmRNAや、チンパンジー由来の「アデノウイルス」を活用した先駆的なワクチン技術としても注目されている。北里大の中山哲夫特任教授は「世界ではSARSなどの経験から新技術の研究を続けた国や企業があった。その延長線上に革新的なコロナワクチンの実用化がある」と指摘する。

 しかし、かつて日本でもワクチン研究が活発に行われていた。今も世界中で使われている水痘ワクチンは日本発だ。中山特任教授は「ワクチン研究が途絶えたわけではない。日本から新しいワクチンが出る可能性はまだある」と期待する。

最終治験が課題、海外での実施も

 国産ワクチンの今後の課題は、治験の最終段階である第3相試験だ。数万人の参加が必要な場合もあるこの治験では、副反応の発生頻度や、発症や重症化がどのくらい抑えられるのかを確かめるため、発症者が一定程度いる流行地域で行う必要がある。しかし、日本は海外に比べて発症者が少ないため、日本だけでなく海外の流行地域での治験も想定されている。

 ただ、流行地域である欧米の多くの国では、すでに承認されたワクチンが接種できるため、「未承認のワクチンの治験に参加する人を確保することが難しくなってくる」(岩﨑利信・塩野義製薬医薬開発本部長)。このため欧米以外の地域での治験も検討せざるを得ない状況だ。

 海外での大規模治験には莫大な費用も必要なことから、政府は費用補助を決定、令和2年度第3次補正予算で1200億円を計上した。厚生労働省は現在、ワクチン開発を進める塩野義とアンジェス、KMバイオ、第一三共を対象としており、国産ワクチン実用化の加速化を狙う。

 日本ワクチン学会理事で北里大学の中山特任教授は「新型コロナだけでなく、新しい感染症への対策としても、国家として、多様な新しい技術のワクチン開発に挑戦していくべきだ」と話している。