ビブリオエッセー

政治に翻弄される若者たち マッドジャーマンズ-ドイツ移民物語」ビルギット・ヴァイエ著 山口侑紀訳(花伝社)

約20年前、アフリカ東南部のモザンビークに開発援助の仕事で3年ばかり滞在したことがある。その時、現地で雇った運転手からお金の相談を受けた。理由を聞けば隣国、南アフリカに鉱山労働者として出稼ぎに出ていた彼の弟が現地の暴漢に殺害されたのだという。

「この国では生まれた地に埋葬するのが習わしなんです」。それは遺体移送にかかる費用だった。私が渡した百ドル札は現地の平均年収の約3分の1にあたる。

そのことを思い出したのは、この本がモザンビーク人の出稼ぎ労働者を描いた社会派コミックだったからだ。かつての東西冷戦時代。行き先は旧東ドイツだった。

「登場人物ひとりひとりにちゃんと体重があって、顏も身体も美化されていないのに目をひきつける」とドイツ在住の作家、多和田葉子氏が推薦文を寄せていて、興味を持った。

マッドジャーマンとは「ドイツ製」という意味だ。モザンビークは1970年代に独立後、社会主義国として東ドイツと協定を結び、多くの若者を出稼ぎ労働に送っていた。登場人物は男女3人。遠国での生活にも慣れた頃、ドイツ統一で故国へ送還される。モザンビーク国内の内戦と終結もからみ、3人は政治に翻弄された。国にも人にも裏切られ、どのように「ドイツ製」のアイデンティティーを得ていくのか、3人のライフヒストリーから描かれる。

冒頭、「故郷って、何だろう。」というキャプションに1ページを使って豹のような猛獣が得体の知れぬ物をくわえている絵が目を引く。ティンガティンガと呼ばれるアフリカのポップアートのようなタッチだ。読後に再び見ると、獣が国(故郷)の象徴で、国民をくわえているようにも見えてくるのは著者の企みだろうか。

山形県天童市 古間恵一

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