新聞に喝!

米国は本当に尖閣を守るのか インド太平洋問題研究所理事長・簑原俊洋

パトロールする中国海警局の艦船=2020年7月(新華社=共同)
パトロールする中国海警局の艦船=2020年7月(新華社=共同)

中国で1日に施行された海警法は、日本の安全保障にかかわる重大な問題だ。中国の海警局(海警)が管轄する海域で違法行動を取り締まる際、武器使用権限が新たに付与されたからである。海警の行動範囲は、東シナ海の尖閣諸島(沖縄県石垣市)沖や南シナ海などが含まれる。ただ、後者では米海軍が相手となるため、海警だとかなり分が悪い。それゆえ、同法の主たる対象は日本の海上保安庁の巡視船がパトロールする尖閣諸島周辺だと理解してよい。

むろん、中国が得意とする現状変更にはいつも伏線があり、この度も2018年に海警が中央軍事委員会指揮下の人民武装警察部隊(武警)に編入された時点から人事と運用面での軍の色彩は強化されていた。それが海警法によって、従来の法執行力に加えて海上武装力をも有する準軍事組織へと変容を遂げたのである。こうした中国の威圧的な行動に対して日本政府は「強い懸念」を訴えるだけで、米国に頼るという従来の姿勢以外は今のところよく見えない。

先日、米新政権の発足後に岸信夫防衛相とオースティン国防長官、次いで菅義偉(すが・よしひで)首相とバイデン大統領との電話会談が行われた。日本のメディアが大きく取り上げたのが、国防長官と大統領が米国の対日防衛義務を規定している日米安全保障条約第5条の適用範囲に尖閣諸島は含まれ、なおかつ米国は日本防衛に対して揺るぎないコミットメントを堅持すると公式に声明したことであった。尖閣諸島沖での中国の挑発を踏まえれば、こうした発言は歓迎されよう。

だが、あえて問う。この言葉を額面通り受け止め、安堵(あんど)していいのか。つまり、米世論は日本人自らが命を張って守ろうとしない離島をめぐって米兵が血を流すことを是とするだろうか。むろん、知日派や安全保障の専門家の米国人は皆、「必ず介入する」と躊躇(ちゅうちょ)なく言う。しかし、特に日本に関心があるわけではないごく普通の米国人に聞けば、無人島なのだから、中国が占拠しても現実的な対応はせいぜい経済制裁だろうと口をそろえる。

日本のメディアは、米国が尖閣諸島を奪還するという「確証バイアス」に陥ってはいまいか。7400万人もの有権者がトランプ前大統領に票を投じた現実を踏まえれば、大きな人的コストを肯定するほどお人よしな国家ではないと筆者には思えるのだが…。

【プロフィル】簑原俊洋

みのはら・としひろ 昭和46年、米カリフォルニア州出身。カリフォルニア大デイビス校卒。神戸大大学院博士課程修了。博士(政治学)。同大学院法学研究科教授。専門は日米関係、国際政治。