話の肖像画

歌舞伎俳優・中村鴈治郎(62)(15)リアルな上方演出の魅力

NHK連続テレビ小説「おちょやん」でも存在感を発揮する中村鴈治郎さん=大阪市浪速区(安元雄太撮影)
NHK連続テレビ小説「おちょやん」でも存在感を発揮する中村鴈治郎さん=大阪市浪速区(安元雄太撮影)

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《「河庄(かわしょう)」の治兵衛(じへえ)は、成駒家(なりこまや)にとって特別な役どころだ。鴈治郎さんの曽祖父で、戦前の上方歌舞伎の大スターだった初代鴈治郎は、頬かむり姿の風姿の見事さから「頬かむりの中に日本一の顔」と川柳に詠まれた。治兵衛は代々の鴈治郎が洗い上げてきた役どころである》

初めて治兵衛を演じたのは平成16年4月、大阪松竹座の「浪花花形歌舞伎」のときで、弟の(中村)扇雀(せんじゃく)とダブルキャストでした。

その際、治兵衛の象徴である頬かむりの手ぬぐいを普段より少しだけ青く染め、月を描いてみました。客席からは、微妙な色の違いや月の形までわからなかったかもしれません。でも、そうすることが演じる上で気持ちの手助けになり、恋に魂を奪われた治兵衛の姿がより際立つように思ったのです。

《その公演では、扇雀さんは治兵衛が花道から最初に登場する際、ちゃりんという揚幕(あげまく)の音を入れる工夫をした。だが鴈治郎さんは、いつもの静かな出(で)だった。兄弟でも演じ方が違ったのだ》

上方のお芝居は、初役でも自分で工夫して演じるということがよくあります。しかも、うちの家の場合、これほど大切なお役でも、父(坂田藤十郎)は手取り足取りという教え方はしませんでした。「まず、自分で考えてみなさい」という教え方です。特に、治兵衛のような上方和事(わごと)の役どころは、一応、型というか、決まりごとはあるのですが、やはり気持ちが大切ということなのではないでしょうか。