勇者の物語~「虎番疾風録」番外編~田所龍一(167)

「黄金の足」全開 長嶋監督に進言できなかった秘策

第2戦、すべての得点を福本の足が稼いだ=西宮球場
第2戦、すべての得点を福本の足が稼いだ=西宮球場

■勇者の物語(166)

小林を攻略、エース山田が6安打2失点の完投。第1戦を勝利した阪急は第2戦、足立をマウンドに送った。

「山田と足立のシンカーは微妙に落ち方が違う。山田より深く落ちる。同じやと思ってたら打てんやろな」

上田利治監督の予想通り、巨人打線は足立の変幻自在の投球に7安打無得点に抑えられた。そして、この試合で巨人ベンチを驚愕(きょうがく)させたのは福本の〝黄金の足〟だった。

◇第2戦 10月23日 西宮球場

巨人 000 000 000=0

阪急 100 001 01×=3

【勝】足立1勝 【敗】堀内1敗

一回、いきなり四球で歩く。堀内-吉田のバッテリーは当然、福本の盗塁を警戒し、1球目を大きく右にウエスト。だが、無駄だった。吉田が送球態勢に入ったときには福本はもう二塁ベースの3メートル手前まで達していた。

悠々と二盗成功。そして、大熊の投ゴロで三塁へ進むと、加藤秀の遊ゴロ(野選)の間に先制のホームイン。ノーヒットで1点-巨人が一番恐れていた失点パターンだ。

福本は六回にも先頭で左前安打を放つと大熊とのヒットエンドランを決め無死一、三塁。1死から島谷の浅い左犠飛で2点目のホームイン。

さらに八回にはこれまた先頭で左中間へ三塁打を放ち、代打・高井の右犠飛で3点目のホームを踏んだ。得点はすべて福本、まさに〝黄金の足〟全開である。

実は巨人ベンチでは「秘策」を考えていた。五回2死走者なしで足立を打席に迎えたとき、杉下投手コーチと黒江守備コーチが「足立敬遠策」を話し合っていた。

福本の足を止めるためには、前に走者がいればいい。足立を打ち取って次の回に先頭で福本を迎えるよりも、足立を敬遠して福本で阪急の攻撃を切った方がよい-と考えたからだ。だが、2人はこの秘策を長嶋監督に進言できなかった。

「1点差で足立を敬遠するような手段は、長嶋巨人に似合わない姑息(こそく)な作戦と思えたから」と黒江コーチは回想する。結局、その躊躇(ちゅうちょ)が六回、八回の攻撃となり、巨人は第2戦も落とした。

「第3戦からはもう、ためらわない」

杉下、黒江両コーチは唇をかんだ。(敬称略)

■勇者の物語(168)