鑑賞眼

舞台「Oslo」 遠い出来事を描く意味

【鑑賞眼】舞台「Oslo」 遠い出来事を描く意味
【鑑賞眼】舞台「Oslo」 遠い出来事を描く意味
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 休憩込み3時間、物語は最初から最後まで「オスロ合意」の舞台裏のみ。果たして飽きずに最後まで見られるのか。そんな懸念を持ちながら座った。

 ところが、である。始まってみれば笑いあり、涙あり、知識が浅くても置いてきぼりにされることのないあっという間の3時間であった。

 飽きさせないのは、登場人物の造形が見事だから。ぎりぎりまでせりふを削る中で、本質にかかわるエピソードはしっかりと拾った脚本により、人物像がはっきり浮かび上がる。出来事や人物の背景を演者に共有させた上村聡史の丁寧な演出にも拠(よ)るところは大きいだろう。物語のすべてを理解できなくとも、「なぜこの人物が?」「なぜこんな行動に?」という疑問で不完全燃焼することがほぼないのだ。

 主役のテリエ・ルー・ラーシェンを演じる坂本昌行の受け身の演技がいい。「中東和平を自分の手で成し遂げたい」という壮大な夢を持ちながら、その過程では防戦一方。逆に重要なポイントで場を支配するのは妻のモナ・ユール(安蘭けい)である。安蘭の背筋の伸びたりんとした姿がはまっている。

 緊迫した交渉の場面(オン)と、酒を飲んで酔っぱらう(オフ)スイッチの切り替えが、観客にとってもいい息抜きになる。2役を演じ分けた河合郁人、相島一之、石田圭祐、那須佐代子らも、巧みに舞台の緩急を操った。河合は必死の早変わりでも、客席の笑いを誘った。

 そして、交渉が進むにつれての変化をうまく見せたのが、イスラエル外務省のウリ・サヴィール役の福士誠治だ。嫌な人物と思わせての登場から次第に和平交渉にのめり込んでいく様子を、血の通った演技とよく通る声で演じきった。

 至るところに工夫は見られるものの、戯曲の難しさ、耳慣れない用語はいかんともしがたく、スクリーンで実際の映像を見せられると、せっかく目の前にあった交渉が遠のいてしまう印象は否めない。だが、そもそも多くの日本人にとって「遠い世界の出来事」である中東和平を、今この時代によみがえらせ、平和を希求する尊さを示す意味は大きい。

 23日まで、東京・初台の新国立劇場中劇場。宮城、兵庫、福岡、愛知公演あり。問い合わせはサンライズプロモーション東京(電)0570・00・3337。(道丸摩耶)

 公演評「鑑賞眼」は毎週木曜日正午にアップします。