正論3月号

チャイナ監視台「台湾統一への新方式が浮上」 産経新聞台北支局長 矢板明夫

蔡英文総統(共同)
蔡英文総統(共同)

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 日本ではほとんど報じられていませんが昨年十二月に、習近平氏のブレーンの一人である上海台湾研究所の倪永杰・副所長が台湾を「智統」方式で統一すると言い出し、最近一カ月ほど中国や台湾のメディアで大々的に取り上げられています。この台湾統一に向けた中国の新たな動向をお伝えしたいと思います。

 毛沢東の時代には台湾の武力統一が公然と掲げられていました。これは略して「武統」と呼ばれます。トウ小平時代になって、この武統路線は放棄されました。代わって平和統一という言葉が登場し、それに伴って中国は「一国二制度」を唱えるようになりました。この平和統一はトウ小平以降の中国の基本方針だったのですが、二〇一九年一月二日に習近平国家主席は演説で「祖国統一は必須であり必然だ」として「一国二制度」の具体化を台湾に迫ったのです。

 つまり平和統一のトーンを弱めたのですが、台湾社会は習近平発言に猛反発しました。その結果、一年後の台湾総統選で、中国と距離を置く蔡英文氏が史上最高得票で再選されることにもつながったのです。

 この再選の背景には、中国との対決姿勢を強めるトランプ米政権による支持もありました。しかしそれ以上に、習近平氏が掲げる台湾統一方針への反発と、中国による香港のデモ鎮圧を見た台湾人の「一国二制度」への反発が大きかったのです。

 蔡英文総統の再選によって、中国の対台湾政策は宙に浮いてしまいました。それから約一年の空白を経て昨年末、倪永杰氏が「智統」を打ち出しました。武力統一はあまりにもコストが高すぎる。かといって平和統一には時間がかかりすぎる。そこで第三の方式として打ち出されたのが、この「智統」だったのです。

 倪永杰氏はどのような人物かといえば、二〇一七年に「習近平の対台湾政策の成果」という論文を出している、習近平氏のブレーンといえる存在です。中国では党中央と無関係な学者が習近平氏の対台湾政策を勝手に分析などしたら大変な目に遭いますから、倪永杰氏は習近平氏の意向を代弁している側近の一人であることは明らかでしょう。

 この「智統」の方針は三つの部分に分かれています。まず一つは中国と台湾とで協力して新しい憲法をつくること。それから「台湾独立勢力」を中華民族の敵とみなして、あらゆる方法で消滅させ、統一後の台湾の安定を確保すること。最後に、以上二つが実現すれば統一は「水が低きに流れるように」実現するというのです。