めぐみへの手紙

85歳…一人の時間が増え 「なぜ救えない」自問の日々

お父さんの遺影には、毎朝、「おはよう。今日も頑張ろうね」と声をかけ、折に触れて、出来事を報告します。生前と同じ、ニコニコとした笑顔を眺めるたびに「単身赴任で天国に行ったのかな」と思うくらい、すぐそばにいる感覚です。

日本では、国会が始まりました。私たちには、難しい国際関係や、政治の事情は知る由もありませんが、「国を思い、拉致を必ず解決する政治を実現していただきたい」という願いはずっと、変わっていません。

拉致事件の解決。そして新型コロナの克服。命をいかに守り、育むのか、政治に課せられた期待と使命は限りなく、大きなものなのではないでしょうか。

私たち家族の思いはずっと変わりませんが、あまりに長い時間が過ぎました。非道な拉致が実行されてから40年以上がたちました。平成14年に北朝鮮が謝罪し、蓮池(はすいけ)薫さん、祐木子さん夫妻、地村保志さん、富貴恵さん夫妻、曽我ひとみさんの5人の被害者が帰国してからも、20年近くが過ぎました。当時はまだ生まれていなかった若者たちが多くいます。拉致事件の風化は、現実になりつつあります。

昨年、拉致解決を最重要課題に掲げた安倍晋三首相が退かれ、菅義偉(すが・よしひで)さんが首相に就かれました。米国でも、被害者と家族に思いを寄せてくださったトランプ大統領に代わり、バイデン氏が就任しました。引き続き、事態の進展にわずかな希望を抱いていますが、依然、兆しは見えません。

昨年11月、キリスト教の祈りの仲間が平成12年から開いてきてくださった祈り会が、200回となりました。こんなにも長い間、めぐみちゃんの姿が見えない現実を痛感しますが、もはや、細かいことを振り返る時期ではありません。

めぐみちゃんの帰国が実現するのならば、お母さんが身代わりになってあげたい。同じ思いを、被害者の家族は抱いています。拉致は、人の命を肉親と故郷から引き離し、閉じ込めるものです。解決できなければ「国家の恥」です。もっと根本的に、日本は今、何をすべきなのか。国民の皆さまにはぜひ、拉致を、わがこととしてとらえ、声を上げていただきたいのです。

そして、北朝鮮は、被害者の命を政治や外交の取引材料に使うことを、今すぐやめるべきです。最高指導者は、拉致解決への決断が世界の幸せに直結するということを、どうか理解してほしいのです。

尋常ではない人生を送りながらも、心が平安でいられるのは、奇跡的なことだと思います。これも、皆さまの支えと、救いがあってこそだと痛感します。先が見えず、むなしい気持ちもありますが、何とか、力をふり絞っていきます。

めぐみちゃん。お母さんはだいぶ弱ってきてしまったけれど、決してあきらめません。めぐみちゃんもあきらめず、再会の日まで、身体に気を付けて過ごしてね。弟の拓也、哲也、そしてお父さんとともに、帰りを待っています。

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