勇者の物語~「虎番疾風録」番外編~田所龍一(161)

嵐のち快晴や 「計算ずく」 すっかりカネやんペース

足を大きく蹴り上げる〝カネやん体操〟が大流行
足を大きく蹴り上げる〝カネやん体操〟が大流行

■勇者の物語(160)

ロッテとのプレーオフが10月9日から始まった。上田阪急にとって最も苦手な相手だ。

監督就任1年目の昭和49年にプレーオフで3連敗。この52年シーズンの対戦成績も12勝11敗3分けとほぼ互角。有藤道世が打率・329で首位打者。レロン・リーが本塁打34本、109打点で2冠王を獲得。投手陣も村田兆治を中心に成田文男、八木沢壮六、金田留広と充実。そして〝カネやん〟こと金田正一監督が一番のスターだった。

「やったるでぇ!」が合言葉。大きな声にオーバーアクション。ウオームアップで足を大きく蹴り上げる〝カネやん体操〟も大流行。球場ではファンにロッテのお菓子を配ったり、試合前に選手のサイン会を催したりロッテの人気は急上昇した。強いけれど人気のない阪急との決戦。世間の声は「ロッテに勝たせたい」に向いていた。

◇第1戦 10月9日 西宮球場

ロッテ 010 000 000=1

阪 急 000 1107 00×=18

【勝】山田1勝 【敗】村田1敗

【本】リー(1)(山田)大橋(1)(仁科)藤井(1)(仁科)

同点の五回に阪急打線が爆発した。先頭の大橋が左前打を放てば、続く福本の投前バントが村田の野選を誘い無死一、二塁。ここで大熊がバントの構えから右翼線へタイムリー二塁打。阪急の攻撃は1時間を超えた。打者15人の猛攻でプレーオフ史上初の1イニング10得点。さらに六回にも7点を加え、19長短打18得点。これには金田監督も怒った。

「ワシは28年間、プロで生きてきたが、こんな恥ずかしいバカな試合をやったのは初めてや。満員のお客さんに土下座しても謝りきれん。ワシの球歴に汚点を残した試合や」

ところが、翌10日の第2戦で八木沢-三井が7安打無失点の完封リレー。3-0で勝利すると-。

「ワッハハ、きのう打たせといたのも計算ずくや。あれだけ打ちゃぁ、次の試合は攻めが雑になるのは火を見るより明らかや。この西宮シリーズは〝嵐のち快晴〟やな」

とまぁ、すっかりカネやんペースに。プレーオフは、予期せぬ混戦状態に陥ったのである。(敬称略)

■勇者の物語(162)