知られざるおいしさ 琵琶湖の宝石、ビワマスは古代湖ならではの味?

知られざるおいしさ 琵琶湖の宝石、ビワマスは古代湖ならではの味?
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 日本最大の湖で、世界でも有数の古代湖として知られる滋賀県の琵琶湖は、長い歴史の中で、独自に進化を遂げた生き物、固有種を育んできた。「琵琶湖の宝石」と称される魚ビワマスもその一つ。マグロのトロにも、サーモンにも似たとろける味わいは絶品だ。しかし、県外ではあまり知られず、県内の関係者は「このおいしさをもっと知ってもらいたい」と口をそろえる。 

(清水更沙)

冬でも味わって

 1月中旬。息も凍るような寒さの中、滋賀県長浜市の琵琶湖沖合を漁船が波しぶきを上げながら走る。船に揺られること約20分。水深約60メートルだという地点に止まると、漁師の鍋島直晶さん(62)がさおを仕掛け始めた。ひたすらビワマスが引っ掛かるのを待つが、すぐに釣れる日もあれば、待っていてもなかなか釣れない日もあるという。

 水温の影響でビワマスが一定の場所に集まりやすいとされる夏に比べ、見つかりにくい冬の漁。だが、この日は当たりのようで、体長50センチほどの大きなビワマスが次から次へと姿を現した。

 漁船で航行しながらビワマスをルアーで狙う鍋島さんの漁は引縄釣(ひきなわつり)(トローリング)と呼ばれる。琵琶湖のビワマス漁は、固定した網を水中に設置し、絡まった魚を捕獲する刺し網漁が主流になっているが、引縄釣は「1匹ずつ釣るために手間も暇も掛かるが、生きたまま捕獲できるので、新鮮さがある」と鍋島さん。

 夏に行われる刺し網漁に比べ、引縄釣の船は寒さの厳しい冬でも漁へ出かけて、冬場の料理店などに提供している。

滋賀といえば…の味に

 ビワマスは、400万年以上の歴史をもつ世界有数の古い湖、琵琶湖の固有種としては唯一のサケ科の魚。体長は30~60センチに成長し、大きなものは70センチを超えるという。滋賀県醒井(さめがい)養鱒場(同県米原市)によると、他の魚に比べて個体数が少なく、漁獲量は年間30~50トンほどで推移し、アユ類の10~20分の1ほどとなっている。

 「湖の魚といえば生臭いイメージがあると思うが、ビワマスはそんなことはなく、まさに絶品。一度食べたらやみつきになるはず」

 こう話すのは、大津市内で琵琶湖産の湖魚を使った料理を提供する「喜烙亭(きらくてい)」のオーナー、藤原省次さん(71)だ。他にも、ニゴロブナやコアユ、イサザなど琵琶湖の固有種を使ったメニューが並ぶが、一番人気はビワマスで、これを目当てに県外から訪れる人もいるという。刺し身や煮つけ、焼き物…。さまざまな調理法があるが、「脂が乗った刺し身は本当においしい」と藤原さん。

 ただ、平成28年に天然のビワマスを使った親子丼が全国的な魚料理のコンテストでグランプリに輝くなどして注目を浴びたものの、藤原さんは「滋賀県内でもビワマスを取り扱う店はそんなに多いわけではない。県外ではまだ知られていない」と指摘。「『滋賀といえば』な存在になるよう、もっと地域に根付く存在となってほしい」と話す。

高齢化の波も

 ビワマスの知名度アップを願う声が各所から上がる一方で、ビワマス漁を取り巻く課題もある。県水産課などによると、高齢化を背景に琵琶湖の漁業従事者数は減少傾向が続いているという。平成5年に2015人だった漁業従事者は30年には836人にまで減っている。

 西浅井漁業協同組合(長浜市)の礒崎和仁組合長は「漁師は70代が多く、若い人は皆無といっていい」と嘆く。漁獲量の減少で、収入を得にくい状態が進んでいると指摘する礒崎組合長。「ビワマスを多くの人に知ってもらおうとしている中、琵琶湖の漁業自体がなくなってしまえば大変だ。多くの人が琵琶湖で今何が起こっているのか注目し、漁業にも興味を持ってもらうことが大切だ」と話す。琵琶湖の漁業の発展のためにも、ビワマスへの期待が募る。

ほかにも固有種がたくさん

 ビワマスのほかにも、琵琶湖にはさまざまな固有種が生息し、湖国の味覚として古くから地域の人々に親しまれてきた。県はそれら琵琶湖の代表的な魚介類を集めた「琵琶湖八珍」のブランド化を推進。湖魚に親しんでもらい、消費を拡大することが狙いだという。

 八珍は滋賀独自の食文化を支えてきたビワマス▽ニゴロブナ▽ホンモロコ▽イサザ▽ヨシノボリ(ゴリ)の固有種5種のほか、在来種のスジエビ、琵琶湖淀川水系などに分布するハス、琵琶湖にすむアユの稚魚コアユの計8種。県は八珍を扱う飲食店のマイスター登録制度を始めるなどしており、現在の登録店舗は240を超えている。

 登録店舗の喜烙亭(大津市)では、ニゴロブナなどを使った特産品の「ふなずし」や白身の魚、ホンモロコを使った天ぷら、ビワマスの刺し身などを「八珍」として提供。「接待などで県外の人をもてなすときにもおすすめ」だという。

 県水産課の担当者は「八珍を入り口に、琵琶湖や湖の魚に興味を持つ人が増えてほしい」と話している。

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