30日は民俗学者、宮本常一(つねいち)の命日である。没後40年となる。郷里である山口・周防(すおう)大島町の島の暮らしを描いた「家郷の訓(おしえ)」はとりわけ好きな1冊だ。山道が崩れていれば直した祖父。家族の分だけでなく、両親を亡くして他郷にある近所の若者らの食事を作り、陰膳(かげぜん)を据えた母。
▶子供たちの一種の鬼ごっこ遊びでは、小さい子を初めに狙わないことを道義として学んだ。随所に古きよき日本があふれている。10年以上前だが、この本があまりに気に入って島を訪ねたことがある。段々畑と穏やかな海が迎えてくれた。ないだ海に夕日が落ちていった。
▶「かつてのよき村人といわれるものは先(ま)ず何よりも村の風をよく理解してこれに従うことであった」(同書)。このような共同体の精神は、なお日本に保たれているのではないか。コロナ禍にあってマスクを外さない日本人の姿を見ていると、村ならぬ「国の風」をよく理解してそれに従っているのではと思える。