一聞百見

伝説のパティシエ、西原金蔵さん 京で再起動

【一聞百見】伝説のパティシエ、西原金蔵さん 京で再起動
【一聞百見】伝説のパティシエ、西原金蔵さん 京で再起動
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令和元年6月のオープン以来、あえて告知も宣伝も一切せず、土日限定でひっそり営業しているのに、大盛況の洋菓子店が京都市にある。「コンフィズリー エスパス・キンゾー」。オーナーは日本を代表するパティシエ(洋菓子職人)、西原金蔵さん(67)。オーナーパティシエとして約17年間、腕を振るった同市の有名パティスリー(洋菓子店)「オ・グルニエ・ドール」を絶好調の最中の平成30年5月、あっさり閉店。約1年の充電期間を経て、現在は妻の純子さん(74)と2人だけで切り盛りする。70歳を前に人生再挑戦に踏み切った理由とは-。

(聞き手・編集委員 岡田敏一)

「農家を継ぐ」から方向転換

京の台所、錦市場(京都市中京区)から堺町通を北に徒歩約1分。通りの東側にある小さなビルの2階に上がると、欧州風の優雅な雰囲気の空間が広がる。

以前、西原さんが主宰していた菓子教室の場所が「コンフィズリー エスパス・キンゾー」だ。店内のショーケースには、宝石のようにキラキラ輝くかわいい菓子「パート・ド・クルスティヤン」が箱入りで並び、カフェのスペースは女性客でにぎわっている。

「クルスティヤン」とは、煮て溶かした寒天に砂糖や水あめなどを加えて固めた和菓子「琥珀羹(こはくかん)」から着想を得て、西原さんが試行錯誤の末、生み出した和洋折衷の新しい「コンフィズリー」(砂糖菓子)だ。商品名はフランス語で「サクサクした食感」といった意味だが、その商品名通り、口に入れると、琥珀羹のようなシャリッとした食感の後、滑らかで上品な味わいが広がる。黒豆や実山椒、バルサミコ酢とタイム、ユズ(京都・水尾産)など、季節感と地元食材にこだわった多彩な味わいが楽しめる。

店内では端正なジャズが流れるが、CDプレーヤーもスピーカーも北欧デンマークの高級オーディオブランド、バング&オルフセン製で、総額300万円以上。筋金入りのオーディオマニアでも知られる西原さんのこだわりが光る。そんな〝粋な京の隠れ家〟で話を伺った。

岡山県の兼業農家に生まれた西原さんは4人きょうだいの末っ子。「上の3人は全て姉で、典型的な甘えん坊の末っ子」としてのびのび育った。将来についても、長男だったので「農家を継ぐのが当たり前で、それが普通と思っていた」という。そんなわけで、農業高校を卒業し、父親も勤務していた地元の名門企業に勤務しながら、家を継ぐことに何の疑問もなかった。「敷かれたレールを走るだけの人生で、そのことに何の疑問もありませんでした」