人形作りを生きがいに毎日薬を欠かさず飲み、明け方から作業に取り掛かる日々が続く。現在も病院へ通い続けており、医師をはじめとする医療従事者らが闘病を支えてくれている。それだけに、「新型コロナ禍での医療現場の過酷さや不安はどれほどのものか。自分にも何かできることはないのかという思いでいっぱいだ」と力を込める。
一つ一つに真心
近江上布を使ったひな人形は東之湖さんのオリジナルだ。約15年前に東京の百貨店の展示会で京都の伝統工芸・西陣織のひな人形を飾っていたところ、「なぜ滋賀の職人が京都のひな人形を作っているのか」という声が上がり、ショックを受けた。そこで地元で受け継がれてきた近江上布を生地にできないかと考え、試行錯誤の末に独自の技法を発明。淡い青色や緑色、薄桜色…。どこにもない優しい色使いのひな人形は全国各地から求められる人気商品へと成長した。「伝統技法を守りつつも、新しいことを生み出す気持ちを大切にしたい」と東之湖さん。
これまでに制作した人形は20万体に上るという。毎年、中江準五郎邸などで代表作の「清(せい)湖(こ)雛(びな)」を展示しているほか、2年前には天皇、皇后両陛下をモチーフにした「令和雛」を制作。東日本大震災の被災地にもひな人形を贈るなど精力的に活動を続けており、一つ一つに真心を込めている。
展示されている清輝雛は「新型コロナが収束し、輝く未来が来てほしい」という願いが込められているという。東之湖さんは「今もなお感染者が増え続けており、心配している。この人形が人々の癒しとなってもらいたい」と話している。 清輝雛の展示は4月中旬ごろまで。問い合わせは中江準五郎邸(0748・48・3399)。