鑑賞眼

宝塚歌劇団宙組「アナスタシア」 新たな財産演目に

記憶を失ったアーニャ(星風まどか、左)を、ディミトリ(真風涼帆)は皇女アナスタシアに仕立てようとする(c)宝塚歌劇団
記憶を失ったアーニャ(星風まどか、左)を、ディミトリ(真風涼帆)は皇女アナスタシアに仕立てようとする(c)宝塚歌劇団

また一つ、宝塚の財産となる演目が誕生した。最後のロシア皇帝の末娘、アナスタシアの生存伝説をもとに、記憶を喪失した少女の過去をたどる、愛と冒険の物語。憂いを帯びた楽曲群が素晴らしく、王道のグランド・ミュージカルに身を委ねる幸福感を味わった。稲葉太地潤色・演出。

原作は1997年公開の同名のアニメ映画で、ステファン・フラハティの音楽はアカデミー賞歌曲賞と作曲賞にノミネートされた。今作はこの映画に着想したミュージカルで、原作の名曲を引き継ぎ、2017~19年まで米ブロードウェーでロングラン(以下、BW版)。日本でも昨年3~4月、梅田芸術劇場主催でBW版を踏襲して初演され、評判も上々だったが、コロナ禍で上演期間が半減してしまった。

物語の主舞台は、ロシア革命から10年後の帝都サンクトぺテルブルク。詐欺師のディミトリ(真風涼帆=まかぜ・すずほ)と相棒、ヴラド(桜木みなと)が、アナスタシアにかけられた褒賞金をだまし取ろうと計画。偽皇女を仕立てるため、記憶喪失の少女アーニャ(星風まどか)を教育し、パリ在住の祖母マリア皇太后(寿つかさ)を訪ねる-。

BW版はアナスタシアが主役だが、宝塚版はディミトリを主役に据え、新曲「彼女が来たら」を1、2幕で効果的に使う。その結果、アーニャと出会って変貌する成長と愛の過程が強調された。

BW版で象徴的だった、アーチ型窓のスクリーンにLED映像を映す巨大セットはないが、宝塚版は約60人の出演者をフル活用。回り舞台も巧みに使い、帝政時代の舞踏会や、パリへ向かう列車の旅を効果的に見せる。合唱の迫力とハーモニーの美しさは宝塚ならではで、思わず目をつむって聞きほれた。

真風が驚くほど歌唱力を伸ばし、「過去への旅」をはじめ、ドラマティックな歌曲を聴かせる。生きるため、手を汚さなければならない陰を秘めるが、アーニャにひかれ、本物の皇女と信じるようになる心理の変化を丁寧に見せる。星風も自ら運命を切り開こうとする近代的なヒロイン像を、地声も巧みに使って好演。皇女になった姿は、ハッとするほど美しい。星風は今作を最後に専科に移るが、華も実力もある人材だけに、今後も主演を期待したい。

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