話の肖像画

歌手・郷ひろみ(27)何事もやり始めたら全力

トータル・プロデューサーを務めるジュエリー・ブランド「ローゼン・ヘムデン」で作品のチェックを行う
トータル・プロデューサーを務めるジュエリー・ブランド「ローゼン・ヘムデン」で作品のチェックを行う

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《芸能生活50年。舞台もこなし、映画は20本近く出演したが、印象深い作品は森鴎外の小説を原作とした映画『舞姫』(平成元年6月公開)という。ドイツに医学留学し、現地の女性と恋に落ちる主人公、太田豊太郎を演じた》

(昭和63年8月から)3カ月ほどベルリンでロケをしたんです。まだ「ベルリンの壁」が残っていた。東西冷戦の最中で、僕らは西ベルリンのホテルに滞在していたんです。撮影のために毎日、東ベルリンに渡っていた。毎日、パスポートを持って通っていたんです。通過するパスポートコントロールでは、担当者と顔見知りになった。だから「もう、いいじゃん」と思っても、管轄は東ドイツ。毎回、トランクを開けられ、車の下からガソリンタンクまでチェックされた。誰か隠れていないか、何か隠していないかって。毎日ですよ。

だから感慨深かったですよ、(平成元年11月に)ベルリンの壁が崩れたときは。「えっ、あれが崩れたの?」ってね。人が自由に行き来するシーンを日本で見たときは感動的でしたね。

《映画では全編の90%がドイツ語だった》

「英語でも四苦八苦していたのに、ドイツ語ですか」って。でもやるしかない。毎日2時間くらいレッスンした記憶がある。あれ、コツがあるんですよ。うがいで覚えるんです。まず水を口に含んでガラガラって。そして今度は水なしでうがいをしてごらんと言われる。それがLとRの違いになるからと。最初はできなかったが、できるようになった。今もそれだけはできますよ、それくらいだけど(笑)…。

《もう映画、舞台はやらないという》

今は歌だけですね。スケジュール自体がそうですから。会場を押さえるのが1年前、ともすれば2年前から押さえることもある。それを中心にすれば、どうしてもそうなる。レコーディングでも、僕が百パーセントのOKを出すまでは、発売にならないんです。音作りを含めてボーカル、バランスも聞いて、トラックダウン(多重録音して曲をまとめる)を確認して「これで良し」となるまで徹底的にやる。グッズ制作にしてもそうです。僕は物を作るのに時間を費やすタイプなんです。だから自分が関与している度合いが大きくなる。休んでいる感覚はない。そうしないと、「郷ひろみ」は成立しないんですよ、いいかげんにやっていると…。そこに重きを置いている。

僕がやっている事業で「Rosen Hemden(ローゼン・ヘムデン)」というジュエリー・ブランドがあります。今年で15周年になります。僕がトータル・プロデューサーで携わっていて、ネックレス、指輪のブランドです。よく「タレントショップは長くは持たない」と言われますが、異例です。これだけ長く続いているのは。非常にスタッフが優秀なんです。プロのデザイナーもいます。僕の役割は出来上がる前の段階からあれこれ注文することで、事前に作りたいもののイメージを言うことです。

品物の強度、品質は計算し尽くされていますが、最後に僕が首を縦に振らないと前に進みません。だから片手間ではできないんです。音楽も事業もすべてに前向きに、時間をかけて寄り添っていく。そこは譲れない部分なんです。(聞き手 清水満)

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